M女タイプではないM女の登場—SMの大衆化に伴う質の変化 1-[ビバノン循環湯 187] -(松沢呉一) -4,620文字-
今回の原稿がそのまま新刊に入るわけではないですが、1990年代にSM業界は大きな転機を迎え、その前と後では、さまざまな点に違いがあることは、本のあちこちで触れられることになろうかと思います。
この原稿は十年あるいはそれ以上前に書いたものですが、五年ほど前に、メルマガ「マッツ・ザ・ワールド」に出したのが初出のはず。長いので二回に分けました。
SM大衆化時代
年配のSMマニアは「最近のヤツらは簡単に自分がSだとかMだとか言いやがる」とよくぼやいている。
五十代以上だと、若い頃は自分のSなりMの資質があることを自分でもなかなか認められず、認めたところで、気楽に楽しめるようなものではなかった。今から半世紀ほど前にはSMクラブの前身になる秘密クラブの類が東京や大阪にあったが、入会するだけで数十万円もの金がかかる。経済的にも敷居が高かったのである。
その後、今と同様のSMクラブが出てくるようになるが、その情報さえなかなか入手できない。この頃でも、今の料金とさして違わない。物価の上昇を考えると、現在の数倍の料金がかかったのだから、金のある人たちしか楽しめなかった。会社経営者や医者、政治家たちだけが楽しめる趣味だった時代だ。
しかし、今やいたるところにSMクラブがあり、大都市にはSMバーやSMパブといった飲み屋があって、店によってはプレイを楽しむことができる。飲み屋でのプレイは当然制限があるわけだが、客が着衣で縛られたり、鞭で叩かれたりくらいはできるし、店によってはショーがある。
さらには出会い系サイトで相手を探すこともでき、同好の士が集まるサークルやパーティもある。
古い世代の人たちだって、そういった恩恵を受けているのだが、秘めたる楽しみに喜びを見出そうとしてきたために、なかなか素直には時代の変化を受け入れられない。また、どんなジャンルでも「オレたちの頃はな」と思い出話をしたがる人はいるものだ。
なーんにもわかっていないヤツらが、わかったような顔をしてSだのMだのと言っていることに苦々しい思いがあるのも理解はできる。若い世代と飲みに行くと、「誕生日は?」「出身地は?」といった質問の延長で「SとMとどっち?」なんて会話が交わされることがあって、「おいおい、そんな簡単なもんじゃないんだぞ」と私でも思う。
話が長くなるので黙っているが、簡単に人間を二種類に分類できると思い込みすぎだ。血液型性格判断と一緒で、相手をどこかで分類することで理解できたような気分に浸りたく、そこにSMが利用されているのだろう。
しかし、その一方で、素直に今の時代を歓迎しているマニアさんもいる。今はSMクラブに行かなくたって、SやMの女たちを簡単に見つけることができる。「私はMなんですぅ」というレベルではないマニアがそこかしこにいる時代になっているのだ。相手を探すだけで苦労した時代に比べて、なんといういい時代であろうか。
※図版はmixiグループの出会い系YYC。ここも変態さんたちが多数利用しているらしい。
首を絞める夫
ヘルスで遊んだ時、相手の体中にアザがいっぱいあるのを見つけた。
「どうしたの?」
「あー、気づいちゃいました?」
「気づくさ、そりゃ」
気づいても、客のほとんどは見て見ぬふりだろうが、私はすぐに口にしてしまう。普通はためらうことを遠慮なく言うと、相手は虚をつかれて、ついつい本当のことを話してしまう法則があって、この時も彼女はこう告白した。
「お客さんと結婚したんですけど、彼が暴力をふるうんです」
DVである。私は深刻な気持ちになって、彼女にさらに聞いた。
「どんなことをするの?」
「噛みついたり、殴ったり、首を絞めたりするんです」
「首まで絞めるのか。酔っぱらって?」
「いや、素面です」
「酒癖が悪くて暴力をふるう男の話はよく聞くけど、素面でもやるのか。別れた方がいいだろ」
「いや、別れられないですよ。最初はイヤだったけど、そのうち気持ちよくなってきて、首を絞められたり、噛まれたり、叩かれたりしてからセックスをすると、入れてすぐイケるんですよー。頭がボーッとして陶酔しちゃいます」
なんだよ、プレイかよ。心配して損した。素人のSMプレイは事故につながりかねないので、そこは注意した方がいいとして、結婚しても、彼女が仕事を続けることを認めているそうなので、いいダンナである。
なお、この彼女は舌や指でもすぐにイッていたので、単にイキやすいだけじゃないかと思わないではない。
※写真は本文に関係がありません。以下同
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