松沢呉一のビバノン・ライフ

本年も新潮文庫から新刊が出ます—新潮社の不思議 1-(松沢呉一)– [無料記事] -2,228文字-

 

去年のことと今年のこと

 

vivanon_sentenceあけましておめでとうございます。

 

昨年は『闇の女たち』と『風俗ゼミナール』の「お客様編」と「女の子編」の計三冊が文庫になったので、ちゃんと仕事をした感じがしますし、三冊ともペイラインを超えて、一安心。そんなに私は売れない書き手ではないです。でも、売れないものはホントに売れず、断裁されたものも数々あります。売り上げが安定しないので、扱いにくい著者かもしれない。

2017年はどうしたもんかと思っていたのですが、『闇の女たち』に続いて、新潮文庫に出していた次の企画が昨年最後の企画会議を通りました。またも単行本になっていないオリジナル文庫です。一部書き下ろしが入りますが、ほとんどは雑誌に既出のものです。

発売は8月の予定。新潮社は校閲が優秀であることが知られていますが、その分、校閲に時間がかかります。そのため、メインの原稿は一月中に入稿ということになっていて、年末から作業をスタートさせてます。『闇の女たち』ほどは手間がかからないので、なんとかなるでしょう。

 

 

新潮社がSMものを出す不可解

 

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もちろん、企画が通ったのはありがたいんですけど、新潮社は何を考えているのかとまた悩んでいます。

担当編集者の岑(みね)さんも、今回は厳しそうなことを言っていたし、企画を出しておきながら、私も「新潮文庫とは合わない内容だろ」と思っていたものですから、企画が通ったのは意外です。

岑さんに聞いたところによると、編集長は「新潮文庫にこういうのもあっていいだろ」と言っていたそうで、誰もが新潮社には合わないと思いながらの企画通過。

なにしろ今回のテーマはSMです。「S&Mスナイパー」や「スナイパーEVE」でずっと続けてきた女王様やM男のインタビューを中心にまとめるものです(「スナイパーEVE」の女王様インタビューは現在も継続中)。

百本くらいある中から、どれを掲載するのかはまだ決定していないのですが、SMを軽くとらえている人たちには衝撃的な内容になろうかと思います。同時に、社会的役割から解放された人たちが、どれだけ自由になれるのかを実感できる内容になるはずです。

新潮社と言えば、沼正三の代理人である故・天野哲夫さんのいた会社ですけど、勤務していただけで、その著書は一冊も新潮社から出ていません。

小説ではSM的なシーンが出てくるもの、そういった心理を描いたものはいくらでもあるでしょうけど、それらは新潮社が得意とする文芸ジャンルです。ノンフィクション・ジャンルでディープなSMの世界を全編扱ったものを出したことなんてないのではなかろうか。

ボツるだろうことを予想して、よそに持って行こうかとも思っていたのですが、「いったいどこにこの内容を面白がる出版社があるのか」と考えると、思いつく出版社もなく、これはこのまま単行本にも文庫にもならなくていいかとも思ってました。

闇の女たち』と同様、エロとして読める内容ではないので、エロ系が得意な版元でも売りにくいと思います。SMイメージに合致した流麗な文体で表現される耽美の世界だったら、マニア向けの本として出しようがありますが、いつものように、お笑いを入れつつ、そこにあるものをそのまま表現する内容です。

 

 

『魔羅の肖像』も『闇の女たち』も今回もすべて不可解

 

vivanon_sentence闇の女たち』も「新潮文庫に合わないだろ」と思ってましたが、あれはまだしも「知られざる日本の歴史」みたいな側面があって、売り方にも、表紙デザインにもそれが反映されています。ネットでは歴史はダメ、「ビバノンライフ」でも全然ダメですけど、印刷物では歴史は強くて、「売れる要素」のひとつです。

それに対して今回は、書き下ろし部分で歴史に触れるとしても、そういう売り方はできない。新潮社をめぐる謎は深まるばかり。

最初から新潮社とのつきあいは謎でした。

魔羅の肖像』は不評につき一年で連載を打ち切られ、単行本は出版社に断られ、やむなくミニコミでまとめ、それを見た翔泳社が単行本にし、初刷は売り切ったとは言え、さして売れた本ではないのに、新潮社が文庫に。当時は新潮文庫とは別ブランドの「OH!文庫」があったので、出しやすかったということがあるにせよ、また、結果、売れたにせよ、チンコやマンコのことばっかり書いた本ですよ。

闇の女たち』もしかり。掲載できる雑誌は少なく、読者支持もない。そして、今回。どれもこれも普通は二の足を踏む内容であり、売れる見込みは通常見いだせない。新潮社って、いったいなんなんだべ。

だんだんその秘密がわかってきているので、徐々にその秘密を明らかにしていこうと思います。新潮社に企画を出そうと思っている方は参考になるはずです。飛び飛びで続きます

※写真は、今回の文庫とはあんまり関係がない私の趣味。彼女は私に懐いていたSMバーのM女さん。実際には全然M性はなく、ひょんなことからこの店でM女に。私にとっては、単にメイド服を着たM女さんだと魅力がないため、下にペニバンをつけるよう命じました。「メイド服の下でいきり立つ一物を思わずいじるM女」という設定。言いなりになると思って近寄ってきた男のケツを犯す女郎蜘蛛みたいな悪辣な女だと思うと、私にとっても急にいやらしさが滲み出てきます。今回の文庫には掲載されないですが、今までSをやったことのない素人さんを女王様に仕立てる連載をやっていたこともあり、ペニバンをつけると豹変するのがいます。ペニバンはホントにいいですね。

 

 

 

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