知らない世界を知るためのAV—田中美津インタビューの疑問点 3-(松沢呉一) -2,589文字-
「AVを正しく評価できているとは思えない—田中美津インタビューの疑問点 2」の続きです。
雑誌の付録のDVDも観ずに保存
前回書いたように、私がこれまで観たAVはせいぜい200本、うち100本は仕事のため、残り100本は80年代に観たものや、エロ本の編集部に行った時にもらったもの。各編集部にメーカーから送られてきて、捨てるしかなくなったものです。偏った編集部が多いので、だいたいは女王様がM男の金玉を蹴っているAVやゲロまみれになっているようなAVです。
脇毛ものをもらったこともあります。あんまり面白くなかったので、これも全部は観ませんでした。エロシーンはいらんので、いろんな人の脇毛だけを撮ってくれれば脇毛研究のために最後まで観るのにな。
あるいは裏DVD屋でもらったものです。裏本を買い続けていたので、スタンプが溜まると特典でくれるんですよ、いらんのに。こういう時も、アメリカのポルノに出ている日本人ものや裏本の同撮ものなど、「エロい」よりも「参考になりそう」というものをもらってました。
裏本の同撮ものは裏本の資料です。末期の裏本は、AVの撮影の際に撮ったスチールを転用したものが増えて、その映像を観ると、「この時に撮ったのか」とシーンの照合ができるのです。照合してどうするって話ですけど。
そういうものを含めても、普通のAVを通して見たのは50本もないと思います。
雑誌の付録についているDVDはほとんど観たことがありません。できればミントの状態でエロ本を保存したいので、袋を開くわけにはいきません。DVDには寿命が来るので、観ないまま劣化していきます。
その上、長らくビデオデッキが壊れていたし、DVDの時代になっても、長らくプレイヤーが壊れてましたし。
という私でありますから、「いやいや、田中美津さん、そんなもんばかりじゃないですよ」と反証として挙げられるのは女王様ものやスカものですから、あんまり説得力がない。
※「スナイパーEVE」の撮影現場はよく観てますが、付録のDVDは一度も観たことがありません。書影は最新号。衣装とコーディネイトされたピンクのムチとペニバンがキュートです。
マイナーとは言え、フェミニズム・マーケットよりはでかい
そりゃ、全体から言えば一部でしかないと言えますが、現実にこういうものが多数出ていて、これらを含めて「ワンパターンで金太郎アメみたい」と田中美津さんは言っているんですかね。そこから外れるものを探そうとしたんですかね。
「M男さんが中学生の時に使っていたラジカセが音楽を奏でているところを女王様が車で轢いて最後は音がしなくなる悲しい映像を観たんか」と問いつめたい(ラジカセではなく、レコードプレーヤーだったかもしれない。これも「クラッシュ」ものです。本当は自分を壊して欲しいのだけれど、死ぬのはイヤなので、自分の分身を破壊してもらうプレイです。これを観ても、一体どこがエロなのかまずわからないと思います)。
SMだけでもこうも広くて、AVはもっともっと幅が広いのです。だから私にはAV全体のことはわからない。
たしかにマニアものは、単体女優が出ているもの、企画系であってもナンパものなどに比べるとマーケットは小さいでしょう。しかし、無視できるほど小さくもない。
AVの本数はわからないですけど、雑誌で言えば、かつてこういうマニア系の雑誌はそれぞれ万単位で売れていました。もちろん、今は雑誌は売れず、廃刊が相次ぎ、残っているものも風前の灯火ですが、フェミニズムの雑誌がそんなに売れた例なんてありますかね。私が読んでいたリブの雑誌「女・エロス」は数千部でしょう。しかも、マニア雑誌は細分化されて多数発売されていたのですよ。
大手の総合月刊誌は銀行や病院に置かれたりもしますが、エロ系マニア雑誌は置かれない。誰もが興味を持ち、その快楽を少しは楽しめるという内容ではないですから、話題になることはなく、多くの人は存在に気づかないだけです。
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