松沢呉一のビバノン・ライフ

おっパブ嬢から意外な情報—渋谷にパンマを見た 1-[ビバノン循環湯 210] (松沢呉一) -4,202文字-

ちょっと前のこと。吉原にあったパンマの話を聞きました。昭和三十年代、四十年代の雑誌を読んでいると頻繁に出てくる業種ですが、今はこの言葉を聞くこともなくなりました。つまりは、この業種自体がほとんど消滅。

しかし、ほんの十数年前までは渋谷にも存在してました。これは知られざる渋谷のパンマ体験記。アサ芸の連載で取り上げたもので、あちらは漫画で、こちらはその文字ヴァージョン。メルマガに出したものです。

去年だったか、この舞台になったホテルを探したのですが、すっかりきれいになっていて、今はもうパンマはいないのではなかろうか。

取材時に写真を撮っていて、何点かはその時のものです。ホテルの中も撮ってるのですが、これは行方不明。たぶん壊れたHDに入っているのだと思います。それ以外の写真はのちに撮ったもので、前に使ったものとダブっているかもしれないですが、気にしないでください。

 

 

渋谷にパンマが存在した!

 

vivanon_sentenceおっぱいパブで働く知り合いと電話でダベッていたら、面白い話が次々と出てきた。

おっぱいバブやランパブからヌキの店に移動するのはよくいるが、彼女は逆コースを辿っている。ホテトル、ソープランド、ヘルス、イメクラ、性感など各種ヌキ業種を経験してから、おっぱいパブにやってきた。主だった性風俗でやったことがないのは女王様くらい。風俗歴三年程度で、これだけ経験豊富な人材は珍しく、それだけに話も豊富なのだ。

私は性感ヘルス店で彼女と知り合っていて、おっパブで働き出したと聞いた時は思わずこう聞いた。

「なんでまたおっぱいパブに」

「働いたことなかったから(笑)。知らない業種があると経験したくなっちゃうんです。この前は池袋の即尺の店にいたんだけど、ここは本当の即尺なんですよ。おしぼりで拭いてもいけない。臭いのがいて、ゲーッてなりましたよ。一日で辞めました。あれだったら、コンドームをつけて本番した方がずっといい」

こういうコだから、一般的には知られてない業種も各種経験している。

「風俗で働き始めてすぐに渋谷で出張マッサージもやりました」

「出張マッサージくらいどこにでもあるだろ。そんなん、風俗とは言わないし」

「本番ありですよ。お客さんが交渉すると、下の方のマッサージもやってくれるんです。すっごい昔からあるらしいですよ」

ハハン、パンマの生き残りですな。売防法施行以降あちこちに登場した、いわゆる「白線(ぱいせん)」の一種だ。表向きは出張マッサージだが、実際にはセックスまでいたす「パンパン・マッサージ」である。温泉地から始まったとも言われるが、まだヘルスやイメクラなんてなかった高度成長期には、トルコ風呂とピンサロと並ぶ風俗産業だったと言っても過言ではない。

中には現在までホテトルといった業態に変換して生き残っているところもあるかもしれないが、「パンマ」の時代から、そのままの形で営業を続けている業者がいるとは知らなかった。しかも、オシャレな若者の街・渋谷で。

この話が面白くて、後日、私は出かけてみることにした。彼女に電話でそう言ったら、注意事項を教えてくれた。

「突然初めての人がフラリとくるようなところじゃないので、もしホテルのフロントで“今まで遊んだことがありますか?”って言われたら、“前に知り合いと来たことがある”って答えてください」

私はストーリーを考えた。

「普段は名古屋に住んでいるのだが、二年前に出張で来た時に、取引先の人と一緒に来たことがあって、久しぶりに東京に出張に来たので、ちょっと寄ってみた」というストーリーを信用させるため、旅行用のバッグを用意した方がよさそうだ。

「場所がわかりにくいので、一緒に行ってあげましょうか」と彼女は言ってくれ、この数日後、おっパブに出勤する前の彼女とメシを食いながら、詳しい話を聞くことにした。

 

 

パンマの実情を聞く

 

vivanon_sentence109で待ち合わせて、円山町に向かった。ここに芸者の置屋を改造したお好み焼き屋がある。周辺はラブホばかりで、デートにはもってこいだが、今日はデートってわけではない。

時間が早く、他に客が誰もいないことをいいことに、大きな声で彼女は話す。

「この辺はよく歩いてましたよ」

彼女が二十一歳の時のことだ。

「その店がいつからあるかは知らないけど、お客さんは昔からの常連さんのおじいちゃんが多いですね。全員がセックスまでするわけじゃなくて、出張の人で、マッサージだけ頼む人もいるし、手コキを頼む人もいました。数は少なかったですけど」

渋谷には、交渉可能のマッサージの店と、純然たるマッサージの店と二種あって、前者は、当時彼女が聞いたところではこちらのタイプは三軒あるそうだ。なのに私は全然知らなかった。風俗取材をやっていても、それとはまた別の世界が存在しているのだ。

ホテルのフロントに純然たるマッサージを頼んだ時に、フロントが気をきかせて交渉可能のマッサージの方を頼んでしまうことがあって、その場合はひたすらマッサージをする。

「プロでもないのに、マッサージをするのは面倒ですけどね(笑)」

「でも、建前上はマッサージ業なんでしょ」

「店を切り盛りしているのはママなんだけど、そのダンナさんが先生と呼ばれていて、マッサージの免許をもっている」

ちゃんと出張マッサージの申請を出しているらしい。

「その人がマッサージの講習をしてくれるんだけど、きわどいところを触ってくるんですよ。いつもママがいるから、それ以上はしないけど。それで、最低限のマッサージは覚える。でも、一時間ずっとマッサージをするのは大変ですよ。本番をした方が楽でした」

実入りも違うし。

 

 

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