眠れるパンマ—渋谷にパンマを見た 3-[ビバノン循環湯 212] (松沢呉一) -5,221文字-
「昭和三十年代のギャルが今も働いている?—渋谷にパンマを見た 2」の続きです。これが最終回。
交渉の手順
話は本日のための実践編に入る。
「で、交渉はどこから始まるの? 女のコが部屋に来てすぐ?」
「常連さんだと、もう互いにわかっているから、ぶっちゃけ話ができるけど、初めてのお客さんに露骨なことを言っちゃいけないんです」
これも摘発されないようにだろう。
「だから、マッサージをしながら、“お遊びはどうします”とかって匂わせるんです。その時もお金のことを口にしてはいけない。あくまでチップとして、あちらが勝手に払うという形にしなければならないんですよ。わかっている人たちは、私たちが行く前に灰皿の下とかにお金を用意してあって、帰りに黙ってそれをもらってくる」
「でも、後払いだと渋る人がいないか?」
「いますよ。いつまでもお金を払おうとしないので、“チップをいただけますか”って言ったら、そんな約束をしてないって言い出して、しょうがないので、フロントに話をして、フロントのおばちゃんが払わせた」
「んっ、それはすっとぼけているのか?」
「いや、たぶん本当に事情を知らなくて、タダでマッサージ嬢とセックスできて得をしたって喜んでいたんだと思う」
店が混んできて、こんな話を大きい声でし続けるのは迷惑である。丁寧な言葉遣いなのだが、彼女は声が大きいのだ。私も大きいが。
「よし、だいたいわかった。今から行ってくる」
そう彼女に告げ、ホテルの前まで案内してもらった。
「ほら、あそこですよ」
なるほど、古い。築三十年以上だろう。この通りは何度も歩いているはずだが、このホテルの存在さえ気づいてなかった。もし私がカップルでここに入ろうとしたら、一緒にいる女子の99パーセントは「えー、こんなところイヤだよ。もっときれいなところに入ろうよ」と言い出すだろう。1パーセントは「おー、こういうところもいいよね」と喜ぶ。そういうのもいるんである。
「頑張ってきてくださーい」と彼女は手を振りながらおっぱいパブに向かい、私はホテルに入った。
※今回も写真と本文は無関係です。
パンマ・ホテルへ
体験したことのないことなので、ちょっとだけ緊張しながら、フロントのオバちゃんに声をかけた。
「ここはマッサージを呼べるのかな」
「大丈夫ですよ」
「どんな女のコがよろしいですか」
「若いコ。いや、三十代」
彼女の言葉を思い出してすぐに訂正した。
「じゃあ、すぐにお呼びしますね」
オバちゃんはリストを見ている。ここに各店の出勤が書かれているのである。なるほど、これでは風俗店のフロントだ。
ここでは何も聞かれず、鍵を受け取った。
部屋に入ってシャワーを浴びる。こういう時間はどうしたって期待が高まってしまうってものだが、期待すればするほど、失望する率が高まるのが定石。なんて考えつつも期待していたら、ノックの音がした。ホントにすぐだな。
私は慌ててシャワーから出た。
「はーい、ちょっと待ってください」と言って大急ぎで体を拭き、ホテルの上っ張りを着てドアを開けた。
白衣のおねえさんが立っている。すべて聞いていた通りだ。三十代半ばだろうか。美人と言えなくもない。
(残り 4068文字/全文: 5411文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ