子どもはまだ赤ちゃんです—目指せ!普通の人 2-[ビバノン循環湯 208] (松沢呉一) -4,742文字-
「風俗ライターの苦労—目指せ!普通の人 1」の続きです。
噛み合わない会話
ホテルに入るところまでは完璧だったと思うのだが、部屋に入ってから、いつもの調子になってしまった。我が家に帰ってきたみたいで。
まずは風呂を探した。どこのホテルに入ってもそうする癖があるのだが、私はなにより先に風呂チェックをする。風呂好きだからだ。広い風呂だと、「あれやってこれやって」とワクワクする。泡風呂だったり、風呂の中に照明が灯って色が変化するようになっていると、当然それも楽しむため、スイッチの位置や入浴剤などの備品も気になる。
そのチェックをしながら、風呂の湯を入れる。話をしたり、イチャイチャしてから風呂の湯を入れていると、湯が溜まるまで待たなければならないからだ。
ここはもう条件反射みたいなもので、この日も真っ先に風呂を見ようとして、「どこかな」と言いながら、奥にズカズカと入っていったのだが、後ろで「こっちですよ」と彼女が言っている。んっ、奥の洗面台のところだと思ったのだが、入口にあるのか。
部屋に入ってくる彼女と入れ替わりに、そちらに行ってみたら、トイレである。彼女は気を遣ってドアを開けてくれているので、せっかくだからとオシッコをした。
「トイレじゃなくて、風呂がどこかなと思ったんだよ」と言いながら部屋に戻った。
「ああ、そうだったんだ。お風呂はこっちですよ」と洗面台のところにいた彼女が教えてくれた。
私は中に入って湯を入れた。湯を入れながら、「んっ、これってあんまり普通の客がやるこっちゃないのかな」と気づいたが、時既に遅し。
風呂から出て洗面台で手を洗った。彼女はタオルを渡してくれる。
「いや、まだ用事は済んでないですよ」と私は受け取ったタオルを洗面台に置いた。
彼女はうがいをするのだと思って、コップを差し出した、イソジンでうがいをすると思ったらしい。
「そうじゃなくて歯を磨こうかと思ったんですよ」
「ああ、ごめんなさい」
「なんかさっきから、話が噛み合ってないですよね」
彼女は黙っている。私としては冗談のつもりであり、なおかつ「いつものようにすぐにうち解けることができず、うまく話が噛み合ってなくて嬉しいな」という内心の吐露だったのだが、無口でおとなしくて暗くて遊び慣れていないタイプの人がこういうことを言ったため、彼女としては気にしたみたい。失敗した。
彼女も歯を磨く。鏡を通して顔を改めて見たのだが、目が大きくて、ホントにかわいい奥さんである。
※写真を撮りに行った際に気づいたのだが、大宮公園には小動物園があって、ここはいいな。無料動物園はウサギ、ヤギ、モルモット、ポニーあたりが定番だが、ここはけっこう珍しい動物がいる。写真はカピバラ。
子どもはまだ赤ちゃんです
風呂が入るのを待つ間、ソファでイチャイチャすることにする。会話をすると、すぐにバレそうなので、さっさとやってしまおうとの計算だ。
彼女は部屋の電気を暗くした。話し方は一時のギャルっぽくて、語尾を意味なく上げる。
「私、暗くしないとできない?」って調子。口調はギャルだが、恥ずかしがり屋らしい。
上着を脱がし、紫色のブラの上に手のひらを当てる。オッパイに張りがある。彼女はそこに手を重ねる。
「この仕事、まだそんなにしていないから、緊張します」
「僕もですよ」
ウソばっか。つうか、私が「僕」と言っている現実に半分笑いになることを押さえられない。
ブラをずり下げて、乳首を触る。乳首も大きくない。
「子どもはいないんだ」
「いますよ。まだ赤ちゃんです。これでもずいぶん乳首は大きくなったんですよ」
そこに舌を這わせると、後頭部に手を回してくる。 「ハー」と息が漏れてくる。
キスをして舌をからめると、背中に手を回してくる。この時に手を回してくるかどうかで相手のやる気がわかるってものだ。もちろん計算でそうしている場合もあるが、この人にそういう計算はなさそさう。
ジーンズを脱がす。下着に手を伸ばそうとしたら、こう言った。
「お風呂に入りましょ。下着が濡れちゃうから」
いやらしいセリフだ。
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