松沢呉一のビバノン・ライフ

長屋のお内儀さんたちの会話—女言葉の一世紀 16-(松沢呉一) -2,794文字-

女が「おれ」と自称する層—女言葉の一世紀 15」の続きです。

 

 

長屋の会話

 

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前回、永田尚著『ビューティ・スポット』から、女が「おれ」と自称する例を抜き出しました。「おれ」とは言っていないながら、武内真澄著『実話ビルディング』にも少しだけ、そういう層の言葉が出てきます。

一階と二階の間にあるW・C「どん底の性愛生活」に出ている「ルンペンと性の悩み」より。

 

長屋の女房お粂が、久しぶりに仕事にありついた亭主と、近所の夜店に行って、叩きバナナを買って帰った。すると隣の後家女がそれを覗いて、大きな声で壁越しにからかった。

「へん、バナナなんか買はなくても、お前なんか××バナナ××ってゐるぢゃねえかよ。」

お粂はかんかん怒って隣まで出かけて行き、

「お前さんなんか、バナナにもありつけないとは可哀想なことだね。そらたんとお上りな。」

と怒鳴って、バナナを一本はふり込んで来た。いやはや、長屋中大騒ぎ。

ところが、このお粂、其の後、亭主が長いこと職にあぶれてしまったので、ヒステリー、カンシャクの連鎖、最後にとうとう亭主に×××まで失業させてしまったといふので、長屋中、又また大騒ぎ。喜んだのは隣の後家、早速バナナの復讐が出来た。

 

これは長屋のお内儀さんたちの会話であり、タイトルにあるルンペンの話はまた別です。

お前なんか××バナナ××ってゐる」「最後にとうとう亭主に×××まで失業させてしまった」の伏字部分を穴埋めをしたいのですが、難問です。伏字になるくらいで、エロ表現であることは間違いないなく、前者は「お前なんか腐れバナナを齧ってゐる」といったニュアンスかと想像しますが、後者はわからん。

 

 

女言葉を使わない層

 

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ここは喧嘩をしているところなので、普段以上に乱暴な言葉になっている可能性がありますが、長屋での会話はだいたいこんなもんだったのだろうと想像できます。

 

 

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(残り 2122文字/全文: 2951文字)

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