松沢呉一のビバノン・ライフ

誰に自己投影して、誰に欲情するのか—田中美津インタビューの疑問点 7-(松沢呉一) -2,576文字-

承認欲求と女性向けエロ表現—田中美津インタビューの疑問点 6」の続きです。

 

 

 

自身が幼女になって凌辱されたい欲望

 

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ここ数回見たように、エロ表現のどこにどう欲情しているのかを見極めるのは難しい。「男は、あるいは女はどんな表現が好きか」を売り上げや人気で見ることは可能だとしても、「その表現を受け取り側がどう脳内で処理しているのか」については「性別によって違う」「ジャンルによって違う」「作品によって違う」「人によって違う」としか言いようがない。

一般には自分と同じ性に自己投影することが多いかと思います。男女の関係を描いていれば、男なら男に、女なら女に自分を投影する。その上で、異性を欲情の対象にする。

しかし、世の中には複雑な人たちがいっぱいいて、マゾの男には「自身がかわいい女の子になって凌辱されたい」という欲望を持った人たちがいます。女装系マゾはとくにそうですけど、そうじゃなくても、こういう人たちがいます。

自身の性別ではなくて、「やられる側」に自己投影をしますから、女王様が汚いおっさんを凌辱している映像では感情移入できない。現実にはその人自身が汚いおっさんだとしても。

こういう人たちは自身がなりたい「かわいい女の子」が凌辱されているものを求めます。

制作側にもこういう人がいます。もともと編集者であり、映像も手がけている人物ですが、「女の子になりたいけど、なれない」とわかっているので、自分の分身として、プロのモデルを使って、凌辱ものというより恥辱ものを作っています。恥じらう姿を求める。込み入ってますわね。

※Amazonで「恥辱」検索すると、女子向けがいっぱいひっかかります。図版の書影はBLみたい

 

 

ゲイ向けDVDでオナニーする女子

 

vivanon_sentenceその上で、「誰が自分を凌辱するのか」の違いがあります。「こんなかわいい私がこんな汚いおっさんにやられる」というところで興奮する人もいますし、あくまでヘテロなので、凌辱するのは美しい女が好ましい人もいます。前者は汚いおっさんがかわいい女の子を凌辱するものを求め、後者は美しい女王様がかわいい女の子を凌辱するものを求める。さらにはその状況に欲情するのであって、相手が誰でもいい人もいましょう。

ある映像の中で、どこに自己投影するのか、何に興奮しているのかは人によって違い、自身でも、それを他者に説明するのは難しい。

また、自己投影する対象を必要としない人たちもいます。からみは不要で、単体でオナニーをしているものを好む。あるいは脱がない状態の方がいいという人たちもいます。田中美津さんに言わせると、これも男の支配欲ですかね。

女子でも、BLが好きな人の中には、ゲイ向けのDVDを愛好している人がいますが、からみは不要で、ゲイ向けのオナニーものが好きなのもいます。出ているのはノンケだったりしますし、オナニーの場合、ゲイでもノンケでもどっちでも一緒。これは女の支配欲でしょうか?

ちなみに私が会ったことにあるこのタイプはノゾキが好きです。女子のノゾキ好きはメチャ少ないと思いますけど、言わないだけかも。彼女の場合は、それと男のオナニーが好きなこととは関係しているみたい。これも原稿にしたものがあるので、そのうち循環しますか(循環しました)。

このシリーズが終わってから公開する予定の「ズリネタ調査報告」でも、それがS的なものなのかM的なものなのか本人もわからないケースが出てきますし、自分がなぜそのシチュエーションに興奮するのかわからないという話が出てきます。本人に聞いても、何にどう興奮しているのかわからなかったりするのです。

※私はノゾキに全然興味がないのですが、先頃、邦訳が出たゲイ・タリーズの『覗くモーテル 観察日誌』は面白そう。

 

 

「自分の感覚」を絶対視した結果

 

vivanon_sentenceといった人たちの存在を考慮すると、田中美津さんの「男の欲望ってこんなものなの?」「ワンパターンで金太郎アメみたい」というAV評価は、田中美津さん自身の見方が皮相で、画一的であることの反映でしかないのではないかとの疑問が生じます。「私はこう見たから、他の人もそう見るに違いない」という思い込みです。

今まで繰り返してきたように、性については、ここから抜けられない人って多いっすよね。なんで他人と自分が同じなのだと信じられるのでありましょう。

 

 

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