国家が推奨する男女のつきあい方—女言葉の一世紀 14-(松沢呉一) -2,613文字-
「昭和国民礼法が定める言葉遣い—女言葉の一世紀 13」の続きです。
「昭和国民礼法」に見る男女のつきあい方
男女間のつきあいについても、「昭和国民礼法」後編第二十六章「雑」で説明されています。
五、男女の間では、互いに人格を尊び、品位を重んじ、左の諸点に注意する。
1、なれなれしい言語、動作を避ける。
2、文通にはなるべく葉書を用ひる。またその用語に気をつける。
3、特に話題に気をつける。
4、監督者なくして散歩・遠足などをすることは避ける。
文通に葉書を使用するのが好ましいのは、家族や大家の目に触れるためでしょう。軽卒なことは書けない。当時は封書だって、親が開けかねなかったでしょうけど。
「監督者なくして散歩・遠足などをすることは避ける」とあることから、この項目はおもに青少年、学生を対象にしたものかと思われます。付き添い人なしで二人でデートをしてはいけないと。男女間で愛だの恋だの、チンコだのマンコだのを話題にしてはいけないと。
「戦前」といった場合、昭和を超えて大正まで含め、時には明治さえ含めるわけですが、大正から昭和初期は自由な空気もあって、モガとモボは連れ添って公道を歩いていました。だから、ステッキガールなんてものが話題にもなりました(これについては拙著『闇の女たち』参照)。
ダンスホールで男女が踊り(ダンスホールではプロのダンサーがチケットをもらって踊るだけでなく、客同士も踊る)、女も酒を飲む。成人していれば、ホテルにしけこんでも咎められない。既婚女性は姦通罪で捕まるリスクがありましたけど。
しかし、やがては警察の取締が厳しくなって、待合や飲み屋に警察がいきなり入ってきたり、道徳団体、婦人団体、町内会が監視を強めていき、ついには二人で歩くこともまかりならない時代になります。歩く場合は女が数歩あとからついていく。
男女間で「なれなれしい言語、動作を避ける」のが望ましいのですから、カフェーの女たちはあばずれってわけです。
※図版は国民礼法振興会編『皇民礼法精典』より。ここまでハーケンクロイツで徹底しているってことは、図版についても、文部省からの指定があったのかもしれない。
中身よりも言葉遣いを問題視する人々
このシリーズがどこから始まったのかもう忘れている方もいらっしゃいましょうし、読んでない方もいらっしゃいましょうが、中山治美というジャーナリストが朝日新聞でやったのはまさにこの延長なのです。
男の言葉遣いは問題にせず、「社会が望む女」「国家が望む女」からはずれるあばずれを叩く女性ジャーナリストと朝日新聞。「お国のため」「道徳のため」とは言いにくいので、深夜番組にもかかわらず、「子どもの悪影響」なるものを持ち出す。女の言葉遣いだけをあげつらうことの悪影響についてはどうして考えないのでしょうか。女は言葉の自由を制限されて当然だと思っているからです。
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