自称「普通の主婦」の日常—Facebookの投稿を検討する 3-(松沢呉一) -2,154文字-
私人であろうとも
そもそも「安倍昭恵は公人か私人か」の議論が出てきたのは、安倍晋三が「妻は私人である」と主張したことから始まっていて、公人であっても私人であっても、「国会で名前を出してはいけない」「その責任を問うてはいけない」なんてルールはなく、籠池泰典を証人喚問した以上、「証人として呼んではいけない」なんてルールもないことがはっきりしているのですから、いまさら「公人か私人か」を論ずることにあんまり意味がない。
しかし、今度は安倍昭恵自身が「普通の主婦」という主張をしているので、「普通の主婦のはずがねえだろ、そんなマヌケな認識でいるから、政権を揺るがす疑惑を生み出したのだ、このボケカスが。少しは反省しやがれ」と罵倒しないではいられない。
前回、前々回を読んでいただければおわかりのように、私は安倍昭恵に同情的なところがあります。彼女は何も考えていないだけです。考えられないだけなんです。
何も考えていない人間が、考えなければならない立場になったのが不幸であって、そこから下りればいい。そのためにはすべて話せばいい。それができないんだったら、責め立てられるのは必然であり、嘘つき呼ばわりされるのも当然です。
※「普通の主婦」が、エアフォースワンでマイアミに移動した時のFacebookの投稿
田中眞紀子の長女の例
公人と私人の境界線がどこにあるのかを考える意味はすでにないかと思いますが、念のために書いておきます。
これについて思い出されるのは田中眞紀子の長女に関する「週刊文春」の記事が出版差し止めになった事件です。
2004年のことです。田中眞紀子の長女が離婚したことを報じた記事に対して、長女からプライバシー侵害を理由にした出版差し止めの仮処分申請が東京地方裁判所に出され、裁判所がこれを認めます。
すでに販売されてからだったため、仮処分の効力はなかったのですが、これを不服として「週刊文春」側は異議を申し立て、裁判所は却下。「週刊文春」は抗告し、高裁はプライバシー侵害に相当する可能性を認めつつ、仮処分を廃棄しています。通常の裁判で争えばよく、出版差し止めは行き過ぎだったという判断です。
田中眞紀子の娘が結婚しようと離婚しようとどうでもいいですが、表現の自由の観点から、出版差し止めがそう簡単に認められてはまずい。そもそも結婚やら離婚やらは公的手続きであり、それ自体、純然たるプライバシーとは言えないでしょう。
それを報じる公益性まではないかもしれないですから、民事で訴えればいいとして、こんなもんで出版自体を禁じることはあってはならんというのが当時私が書いていたことであり、高裁の判断もそれに近いものでした。
自身が政治活動をしているのかどうか
つうことなのですが、公人か私人かの線引きはホントに難しい。
「週刊文春」側が主張するように、田中家は政治家を生み出している家系であり、その一族は政治家になる可能性があることをもって、「純然たる私人ではない」とまでは言えないだろうと思います。政治家としての活動、あるいは政治家になるための活動を始めたらプライバシーが制限されてもいいとして、それまでは私人でしょう。
長女は田中眞紀子の選挙運動に同行したことがある点において、政治活動のサポートをしていると言えますが、家族が立候補した場合にそれをサポートするのは自然なことであって、ポスター張り、宛名書き、お茶汲みなどをやったことをもって直ちに全生活において私人ではなくなるわけではないという意見もありましょう。それもわからんではない。
この時に、自らマイクを手にして顔や名前を晒してスピーチをすればまた別として。
※「普通の主婦」が、親族でもない立候補者を応援した時のFacebookの投稿
「普通の主婦」と言い張る安倍昭恵の場合
「ある部分は公人と見なされるとしても、それ以外の場面では私人である」という解釈もありましょうね。しかし、公務員を何人も従えているような場面はすべて公人とも言えます。
要人の場合、私的領域であっても、身体や生命の安全のために警備をつけるわけで、自宅だって警察が警備をしますが、安倍昭恵に随行していた公務員は警備ではなく、昭恵自身、Facebookで「秘書」と表現しています。公務員の秘書がついている行動についてはすべて公人と見なすのが適切かと思います。
以上を基準に前回出したリストを改めて見てみましょう。ほとんど毎日公人としての活動をしていると思われます。写真の多くに自身が写っていて、撮影しているのは「秘書」じゃないですかね。
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