松沢呉一のビバノン・ライフ

自称で使用される「女の子・男の子」のズレ—「女子」の用法 3-[ビバノン循環湯 227] (松沢呉一) -3,330文字-

「娘」は個人、「女子」は集団に向く言葉—「女子」の用法 2」の続きです。

 

 

 

「知恵袋」の投稿

 

vivanon_sentence「女子という言葉の理解が浅いまま、雨宮まみは、ああも女子って言葉を使ってきたのか」と呆れながらも、一から全部整理するのはあまりに面倒で、そのまんまになってしまったのですが、それからしばらくして、以下の知恵袋の文章を読んで改めてまとめておく気になりました。

 

 

(大至急)HIPHOPに詳しい方教えて下さい。助けて下さい。 私は今年、24歳になる男の子です。半年前の私の誕生日に友達が合コンを開いてくれました。その時に出会った女性が今の彼女です。付き合いだして3か月が経って打ち解けてきた頃でしょうか?普段のデートでの何気ない会話で彼女は訳の分からない言葉を口にするようになりました。例えば私が「そりゃ、命を懸ける気持ちですねー」っていうと彼女は「三文字で踏むねー」とか私が、彼女の笑いのツボを押さえた事を言うと「今の発言の面白さDJポメー級!!」とか彼女との約束を忘れてた時は「ポッドキャストに呼ばれなかったOKIの気持ちが分かるのかよ?」とか私が東京に友達と観光するときは「最先端か不確かな東京!!」とかです。一番分からなかったのが、私が町内のマラソン大会で最後の3キロ地点でヘロヘロになって歩き出した時に彼女は「お前は、UMB2006の時のFORK VS 25時の影絵の時の影絵の8小節4回目か!!」です。いまだに意味不明です。そんな彼女を友達がクラブで見たそうです。

彼女はマイクを持ってステージの上でラップしていたそうです。友達が証拠にムービーを撮っていましたのでこの目で確認しました。(略)

 

 

「私」は彼女がラッパーであることを知らずにつきあい始め、友だちに言われて気づき、彼女が使う言葉の意味を教えて欲しいという内容です。

これには笑いましたが、おそらく釣りでしょう。釣りだと思える理由はいくつかあるんですけど、「訳の分からない言葉」のわりに正確に記述できている点がまず怪しい。本人に「今なんと言った?」と聞いてメモしたんだったらわかりますけど、そこまで聞いておいて、彼女がラッパーであることを知らないのはおかしいべ。もうラッパーであることがわかったんだから、意味は本人に聞きゃあいいし。

※写真は明治十年に造られた学習院の門。重要文化財。現在は学習院女子の門に使用されています。

 

 

「私は24歳の男の子」と言うかどうか

 

vivanon_sentenceここで書き手のプロファイリングとして重要なのは「私は今年、24歳になる男の子です」の部分です。こんな言い方をする成人した男はまずいないのではなかろうか。あり得ないとまでは言えないですが、他の要素をも考慮して、「これは釣りだな。書いているのは女じゃないか」と思いました。

「男子と男の子」「女子と女の子」はイーコルではないですが、重なる言葉ですので、これを検討してみましょう。

五十代の私が二四歳の男を指して「男の子」という言い方をすることはあります。たとえば誰かに人を説明する時に「二四歳の童貞の男の子がいて」「二四歳のかわいいゲイの男の子がいて」といった言い方をすることはあるでしょう。五十代である私は、二十代前半くらいまでは男も女も「子」をつけられる。

実際、その世代は私にとってまだ「子ども」という感覚があるので。自分の半分も生きていない学生までは子ども。

しかし、これは「五十代の私」という足場によって決定されることであって、二十代の時には同世代を「男の子」とはまず言わなかったと思います。ただの「男」。歳をとるとともに子どもの範囲が広がります。

よって、自分で「二十四歳の男の子です」と言うのは無理がある。相対的には、そのくらいの歳にとっての子どもは十代までかと思います。

つまり、他者を指すのか、自分を指すのかで、使える範囲が違ってくる。

 

 

「ちゃん」づけして欲しい欲望

 

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今現在の私は、二十代後半を指して「女の子」と言うことがあるかもしれない。女の方が歳が上になっても「子」や「ちゃん」をつけられるところに私の見方、扱いに性差があって、「女をより子ども扱いしている」と指摘されれば「そうかもね」と同意しましょう。

「子ども扱いしている」のはただ「軽んじている」というだけではなくて、「要求に答えている」という意味だったりもします。

「ちゃんづけをして欲しい」という欲望をもつ人たちがいます。「栄ちゃん」と呼んで欲しいと言いながら、そう呼ばれるとムッとしたと伝えられる総理大臣もいましたし。

 

 

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