松沢呉一のビバノン・ライフ

整形に見る女経営者の冷酷さ-[ビバノン循環湯 256] (松沢呉一) -4,338文字-

メトロポリタン美術館のパプリックドメイン作品を無理矢理使う」シリーズです。売春宿の女経営者と言えばマダムです。madamで検索したら、いっぱい出てきたのですが、ただの婦人でした。どれも売春宿の女将に見えますし、実際、女将も混じっているかもしれない。

この原稿も「Ping」に書いたものだと思います。

 

 

 

女のスタッフ、女の経営者の存在を見ようとしない愚劣な人々

 

vivanon_sentence風俗産業を語る際に、「女=被害者・弱者・善人/男=加害者・強者・悪人」という、どうにもならない二項対立の図式でしか見られない人達がいる。特に、売買春否定派の人達に多いのだが、こういう見方こそが、既存の男女関係を支えたり、強化することに気づけないほど彼らは愚鈍だ。

この構図では、客も経営者も悪人であることとなって、女が店を経営をすること、女が客になることもある現実を否定し、そうしようとする女たちの意思をも否定し、経営者も客も男であり、女はサービスを提供するという関係を固定してしまう。

男女の不均衡を問題にするなら、女の経営者たちをサポートすることで、その不均衡を改善すればいいのである。こういう連中の本質はただの道徳主義者であり、「女はそんなことをするはずがない」、さらには「女がそんなことをしてはいけない」という道徳を守ることに必死。現実を見ようともせず、道徳に反する女たちに制裁を加えることで頭をいっぱいにしているので、決してそんなことはしない。偽善者という言葉はこいつらのためにある。

男に比べると少数派であり続けているにせよ、現実に風俗店には女性スタッフがいる。東京より関西の方が多いような気もするが、店長や社長、オーナーという女性だっている。女の気持ちがわかるのだから、こういう店で安心して働けるはずだし、いい人材が集まって流行ってもいいだが、必ずしもそうはならないのもまた現実というものだ。

私が直接知っている範囲でも、複数のソープランド、ヘルス、SMクラブの女性オーナーがいる。もちろん、人によりけりなのだが、時には男よりシビアで、「女のスタッフは厳しいからイヤだ」という風俗嬢も多いもの。

女性オーナーの多くは、自分でも接客していたことがあり、たいがいは人気があって、その時に稼いだ金で今の店をもっている(親の代からやっていたり、OLが突然脱サラして始めたケースもあるが)。それだけの実績があるために、誰にも自分と同じくらい努力することを求めてしまう傾向がある。「私がやってきたんだから、誰でもできるに違いない」ということになりやすいわけだ。

また、男のように、女に対する幻想がないので、甘やかすことをしない。経営者や店長が男だったら泣けばなんとかなったりするが、女には通用しない。もちろん、かわいぶっても通用しないし、お色気じかけも通用しない。

Jean Auguste Dominique Ingres「Madame Jacques-Louis Leblanc」

 

 

ママ推薦の新人

 

vivanon_sentence某有名ストリップ劇場のママも、「傷つくこと、本人が気にしていることを平気で口にする」と、この劇場所属のストリッパーが言っていた。こういうところは、女の方が容赦ないかもしれない。

多くの場合、女性オーナーはサバサバしていてつきあいやすいのだが、ある性風俗店の女性オーナーも性格がきっつい。

彼女とメシを食った時にこんなことを言う。

「いい子が入ったから、取材してよ。オッパイはGカップ。でも、おデブじゃないよ。この子は本当に好きものでね。うちはゴムつきだから、お客さんが自分でゴムをつけたりするでしょ。でも、“生でくわえたい”って言って、ゴムを外して生でしちゃうんだって。それで、“病気がうつったらどうするんだ”って怒った客がいてわかった」

ゴムつきの店に来る客の中には、病気の知識を十分に持ち合わせ、生の店で遊ぶことの危険性をもよく知っているのがいるものだ。

「でも、そういう態度を喜ぶお客さんも多いから、このままいくと、すぐにうちのナンバーワンになるんじゃないかな」

今現在、この店のナンバーワーンはRちゃんだ。

「Rはルックスもまあまあいいし、サービスもしっかりしているから人気があるけど、あの子はお金のためというのが見えちゃうんだよね」

客の前ではそういう素振りは見せないようにしているつもりだろうが、普段から、彼女はいたってビジネスライクである。

「その点、M(その新人の名前)は、本人が楽しんでしまおうって子だから、サービスにもウソがないんだよ」

そうも言うなら、一度取材してみるか。

Amedeo Modigliani「Flower Vendor」

 

 

気持ち悪くなるくらいのブス

 

vivanon_sentence私はこう聞いた。

「で、顔は?」

「ああ、気持ち悪くなるくらいのブス」

 

 

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