松沢呉一のビバノン・ライフ

戦争間近の「週刊よみもの」—東西悋気くらべ-[ビバノン循環湯 250] (松沢呉一) -2,096文字-

 

「週刊よみもの」という雑誌

 

vivanon_sentence戦前、「週刊よみもの」という雑誌がありました。実話系週刊誌の元祖みたいな雑誌です。おそらく昭和8年創刊で、昭和13年まで出ています。

この雑誌を読んでいると、日本が着々と戦争に向かっていく様がよくわかります。しかし、私が好きなのは後半に出ているエロ・エッセイです。この前に「軟派」と呼ばれるエロ系雑誌はすべて潰されていたのですが、露骨ではない程度にはこの頃もまだエロ記事が掲載されていたんですね。

この出版社は銀座にあって、そのためもあってか、カフェーにまつわる話がやたらと出ています。よくわかっていない人がいますが、戦前のカフェーは喫茶店ではなく、コーヒーも飲める飲み屋であり、クラブやバー、キャバレー、キャバクラに近いものです。その多くはカフェーで聞いた噂話を脚色したようなもので、信憑性は薄いのですが、当時、カフェーの女給は「半娼婦」と呼ばれていたように、客と一緒に待合(連れ込み旅館のようなもの)に行ったり、アパートに客を連れ込むことがよくあって、そういう女たちと客のやりとりがよくわかります。

簡単に言えば、今のキャバ嬢と客の関係と一緒ってことです。

 

 

東西悋気くらべ

 

vivanon_sentence昭和11年5月15日号(通巻108号)を読んでいたら、「東西りんきくらべ」という記事が出ていました。悋気、つまりは焼きもちですが、中身は監禁プレイのお話でした。

冒頭はチェコスロバキアからの外電から始まります。チェコのノフイ・ボフミンという場所で、若い女が足枷をつけられて、入口に猛犬がいる部屋に監禁されているのを発見されます。監禁したのはこの夫。年老いた夫は、若くて美しい妻に対する嫉妬から人目に触れないようにしていたのです。

ところが、妻は「この牢屋の中で満足して幸福に暮らして居るのです」と言い、合意の上のことだったことがわかって、警察も困り果てました。しかし、それでも人間の自由を奪っているのを放置するわけにはいかず、夫を逮捕したそうです。

いつの時代も、監禁したい人がいて、監禁されたい人がいます。拘束したい人とされたい人と言ってもよく、私にはどっちもまったく理解ができないのですが、そこかしこにいっぱいいます。性的関係じゃなくても、拘束したい会社と拘束されたい社員、拘束したい国家と拘束されたい国民などなど。

この話のあと、日本の例が紹介されます。藤原君は四十歳くらいの堅物です。真面目に働き、無駄遣いを一切せずに貯金をしてきて、結婚するや否や仕事を辞めてしまいます。掃除や洗濯、炊事はすべて自分でやります。買い物をしている妻の姿、洗濯物を干している妻の姿を他を男に見せたくないからです。

家の中には座敷牢があって、妻はそこで暮らしています。

Paolo Veronese「Saint Catherine of Alexandria in Prison」

 

 

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