松沢呉一のビバノン・ライフ

二番手戦略—一番を狙うから辛くなる-[ビバノン循環湯 243] (松沢呉一) -5,301文字-

「ナンバーワンよりオンリーワン、オンリーワンよりワンオブゼム」と私はよく言っているわけですが、これが広い意味での「二番手戦略」です。一番になろうとしない。「そんなん、言われなくてもたいていの人がそうなっているじゃないか」ってことですけど、結果そうなっているのか、あえてそれを狙っているのかでは意味が違う。一番になれる能力のある人はいいとして、一番になる能力がないのに一番を狙うから辛いことになる。身の程を知った上で戦略を立てるってことです。

たぶん「てぃんくる」か何かに書いたものだったと思います。十年以上前です。

写真はメトロポリタン美術館より。ラーメン屋に並んでいる人のイメージ写真を探すだけで数時間かかってしまったぜ。もっといいのがいくつかあったのですが、全部、著作権が生きてました。ラーメン屋に撮りに行った方が早い。パブリックドメインの写真作品は1万点強あって、その半分くらいは見ましたが、彩色ものがほとんどない。たまにあったかと思うと日本のものです。米国は彩色技術が発展しなかったのかも。

 

 

 

博多の札幌ラーメン屋

 

vivanon_sentence取材で博多に行った時のことだ。まだラーメンを食っていなかったため、タクシーの運転手にこう聞いた。

「どこの店がオススメですか」

「よく聞かれるけど、ラーメンはみんな好き嫌いが違うからね」

通の回答。好き嫌いは人によって違う。だから、自分が好きなものを人に勧めても納得してもらえるかどうかわからないことをよくわかっている。

「じゃあ、どこが流行ってますか」

「だったら、そこの商店街の中のラーメン屋かな。いつも列ができているよ」

ホテルのすぐ近くにあるアーケードの商店街である。

翌日の昼前、散歩がてら、その店に行ってみた。店名は「どさんこ」。札幌ラーメンの店ではないか。バカにしているのか、あの運転手は。

しかし、午前中にもかかわらず、なるほど店の外にまで列ができている。他のラーメン屋で列までできているのは見ておらず、本当にここは流行っているのだ。タクシーの運転手がここを教えたのは何も間違っていない。

いったいこれはどういうことか。

Aleksey Ivanovich Saveliev「Deputation of the Yasno-Polyanskyi Peasants」

 

 

こだわりが強い場所だから邪道がトップに

 

vivanon_sentenceこの日、博多に住む知人にこの話をしたら、彼はこう説明してくれた。

「ああ、あの店は僕も何度か行ってます。でも、一番好きなラーメン屋を聞いたら、地元の人であの店を挙げる人はいないと思いますよ」

でも、現に列ができるほど人気があるではないか。

 

 

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