松沢呉一のビバノン・ライフ

錦糸町の良心的ボッタクリ—ボッタクリ店社長が教えるその内情 上-[ビバノン循環湯 246] (松沢呉一) -4,209文字-

20年近く前に書いた原稿かと思う。この時の取材はおそらく「アクションカメラ」の連載に書いたのだが、このエピソードは詳しく書く余裕がなくて簡単に済ませ、これはこれでまとめておき、数年前にメルマガ読者限定のevernote初公開したものだったはず。

昨今は錦糸町も様変わりして、ピンサロのほとんどはすでになく、バングラデシュ人の客引きがいっぱい。ついていったことがないので、どういう店に連れていかれるのか不明。日本人の客引きだと、この記事にあるように、ぶっちゃけ話も教えてもらえるのだが、外国人の客引きだとそうもいかない。やりにくい時代である。

写真は最近の錦糸町。

 

 

 

錦糸町初取材

 

vivanon_sentenceこの夏、錦糸町を初めて取材した。何度か行ったことはあっても、これまで取材をしたことがなかったのだ。

この歓楽街には多数のピンサロがある。昼間っから客引きが道に出ていて、次々と声をかけてくる。よく知らない街だから、警戒を怠るわけにはいかない。雰囲気からして、どうも怪しい。

声をかけてきた客引きに、「ボッタクリじゃないの?」と、ストレートに切り出した。

「それは入ってもらわないとわからないねえ」

いよいよ怪しい。どうせボッタクリをするんだったら、「全然心配ない」と客を安心させればいいわけだが、そうは言い切らないところに良心がある。あるいは警察対策がある。「4980円ポッキリ、それ以上は一切金がかからない」なんてことを断言してしまうと言質をとられてしまうので、もっととられる可能性があることを示唆しておくのだろう。

何人かの客引きと話したが、どれもこれも怪しい。

ここで飛び道具を出した。取材だとバラすのだ。ボッタクリの店は、だいたい取材だと言うと態度が変わり、場合によっては追い返される。ボッタクリかどうかを見極めるにはこれが早い。

ところが、ここの客引きは「取材だったら、実際に体験しなきゃダメだろ」なんて言ってきて、どうもよくわからない。

辺りを一周して、あっちゃこっちゃをひやかしてしたら、そのうち、ある若い従業員がこう教えてくれた。

「ここには30軒くらいのサロンがありますが、半分くらいは2万3万ととられますよ」

タケノコはぎである。「下着になるなら、あと1万円、ブラをとるなら、さらに1万円。もう1万円出せば、もっといいことしてあげるんだけどな」などと値段を吊り上げる方法だ。しかし、今時、暴力をふるったり、監禁するような店は少なく、法的にも規制するのは難しい。

こういう店での対処の仕方もわかっているので、私はひどいことにはならない自信があるが、タケノコはぎとわかっていてあえて入ることもあるまいとサロンには入らずにこの日は帰った。

 

 

「日刊ゲンダイ」が3千円だったら買わない方がいい

 

vivanon_sentenceしかし、やっぱりサロンも入っておこうということになって、編集者と後日出直した。

あれこれ教えてくれたボーイの店に行ってみた。「うちは大丈夫ですよ」と言っていたからだ。
店の入口に50代と思われる、頭の禿げ上がったオジサンがいたので話しかけた。あとでわかってくるのだが、この店の社長らしい。

「いいコはいる?」

「ああ、いるよ。『日刊ゲンダイ』を見たの?」

看板にも「本日『日刊ゲンダイ』掲載」と貼り出してある。スポーツ新聞や夕刊紙に広告を出し、客がそれをもっていくと、割引になるのだ。

「今日は『日刊ゲンダイ』の掲載日だから、『日刊ゲンダイ』を買ってくればオールタイム4980円だよ」

正規の料金だと、この時間帯は8千円と書いてあるので、3千円も安くなる。

「今から『ゲンダイ』を買ってくればいいんだ」

「そうだよ。そこのコンビニで買っておいでよ。『日刊ゲンダイ』が3千円するんだったら買わないでいいけど、120円だったら、買った方がいいよな」

※墨田区、江東区、台東区を歩いていると、ランドマークとしてのスカイツリーは絶大。道に迷った時に頼りになるので、だんだん好きになってきた。

 

 

あのボーイはひどいヤツだった

 

vivanon_sentenceさっそく私は近くのコンビニに向かったのだが、このオジサンがやたら愛想がよかったので、ついでに情報収集をしておくために、きびすを返した。

「ちょっと聞きたいんだけど、この辺はボッタクリが多いんだってね」

「どうだろね。他の店のことは知らないな」

「この店は大丈夫でしょ」

「いやー、中のことは知らないよ。入ってみればわかるんじゃないか」

「そんな」

どうもヘンだ。

「だって、オレは自分の店で遊んだことないからさ」

「そりゃそうだけど、前にこの店のボーイが大丈夫って言ってたよ」

「ああ、メガネをかけたヤツだろ」

「そうそう」

「あいつはダメだよ。あんなヤツを信じたらひどい目に遭う。もううちにいないんだよ。うちに泊めてやったら、ソウジしやがってさ」

ソウジというのは、部屋のものをもっていくことである。

信じてひどい目に遭ったのはこの人自身だった。

※錦糸町のラブホ街は充実。私は千葉在住の娘っ子と遊ぶ時に中間地点として錦糸町を利用していた時期があるので、ちょっとは馴染みがある。

 

 

常習犯だった

 

vivanon_sentence「ある日うちに帰ったら、金はもちろん、ブランドもののバッグとか貴金属とか金目のものを全部もっていきやがった。すぐに質屋に調べてもらったら、案の定、質屋に入れてたよ。全部で三万円になったらしい。ベッドの下まで探したあとがあったから、保険証を探したんじゃないか」

 

 

next_vivanon

(残り 2070文字/全文: 4339文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ