微妙なボッタクリの街・錦糸町—ボッタクリ店社長が教えるその内情 下-[ビバノン循環湯 247] (松沢呉一) -3,079文字-
「錦糸町の良心的ボッタクリ—ボッタクリ店社長が教えるその内情 上」の続きです。
親切なボッタクリ店の社長
どうも酒が入っているようで、オジサンは饒舌である。こんな話をタップリして気を許したのか、あるいは私がこの業界に詳しいことがわかってきたためか、内情をすべてバラし始めた。
「しょうがねえな、特別にホントのことを教えてやるよ。3千円まけても、中でもっと払うことになるから、結局一緒なんだよ」
「?」
「だからさ、4980円で入るだろ。そしたら、中で女のコが金をもっと出せって言ってくるんだよ」
この店もタケノコはぎだったのである。風俗誌ではボッタクリを排除しているが、新聞の広告では、そこまでチェックしない。
しかし、一般的には『日刊ゲンダイ』『東京スポーツ』に広告が出ているとなれば、安心してしまいがちである。
「中で、あと3千円だけ払えばいいよ。『ゲンダイ』を買ってきたら、3千円払っても、結局、8千円でヌケるんだから、一緒じゃないか。釣りをくれなんて万札出したら、全部女のコがもっていくから、ちゃんと両替してこいよ。財布の中なんて見せたら、あいつらありったけもっていくから、別にしておけよ。うちのコたちは温情があるから、電車代の2千円くらいは残してくれるけどな」
タケノコはぎの店の人が「両替してこい」「財布の中を見せるな」と注意してくれるのは相当珍しい。
なお、2千円ほど残すのは温情などではない。交通費までなくなると、警察に行かざるを得ないからだ。警察に行ったところで警察もどうしようもないのだが、店としてはできるだけ面倒は避けたい。たぶんこのオジサンが指導しているんだと思う。
「2、3日前にも、5万円払ったのがいたな。あと、カードも見せたらダメだぞ。七万か八万になるからな。でも、うちは、それ以上はやらない。四、五万だったら、わざわざ警察に行くようなのはいないよ」
「金は店と女のコと半々?」
「いや、うちはそんなにとらない」
ボッタクリの相場は店と女のコが5・5が多いから、半分以上が女のコだとすると、良心的な店だ。
「女だって、2万円とったって、店には1万と言っておけばわからないからな」
これもよくある話。客から2万とって、1万円を隠し、残りを折半すると、計1万5千円、四分の三が女のコのものになる。女のコらが勝手にチップをもらっていて、その金に店はタッチしていないという建前になっていることも多いので、薄々チョンボしていることがわかったところで、店はそううるさくは言わない。こういったチョンボを含めて半分以上が女のコの取り分という意味なのかな。
うちにかわいいコなんていねえよ
「そうすっと、この辺で、完全パックの店はいないの?」
「あるよ。安心なのは、あの店だよ。あの店は若いコが多いしね」
オジサンは角地にある店を指さした。その店の看板には確かに完全パックと書いてある。
「あの店は場所がいいから、完全パックで遊べる。でも、他は客が少ないからそうはいかない」
例外が多すぎて一概には言えないが、流行っていそうな店、立地のいい店の方が安全。
「この奥の店も全部危ないんだ」
「いやー、他の店のことは言えないよ。まあ、うちで遊んでいきなよ」
いまさらそんなこと言われても。
「このコたちは店に出ているの?」
私は拡大コピーして店頭に貼られていた『日刊ゲンダイ』の広告に出ている2人の写真を指さした。
「いや、いない。うちは写真だけはたくさんあるからね(笑)。“どのコを指名しますか”って聞かれて、“このコ”って言うだろ。そうすると、“このコはお休みです”ってことになる。“このコはお休み、こっちのコは早番でもう帰った。休み休み休み早番早番早番”って、結局出ているのは3人しかいない」
「オジサンの店にかわいいコはいないんだ」
「うちに、かわいいコなんていねえよ(笑)」
正直者。
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