松沢呉一のビバノン・ライフ

「週刊新潮」から見る新潮社の体質—新潮社の不思議 4(最終回)-(松沢呉一) -3,487文字-

今年に入ってからの「ビバノン」の記事で、ダントツの人気は「『夫のちんぽが入らない』と『妻のまんこに入らない—新潮社の不思議 3」です。今もアクセスが続いています。

こだま著『夫のちんぽが入らない』がヒットしたおかげでありますが、あの段階ではまだ読んでなくて、読んで以降書いた書評シリーズよりも、読まないうちに書いた記事の方がアクセスが多い。タイトルに「ちんぽ」と「まんこ」がダブルで入っているために検索でひっかかりやすいのだと思います。その証拠に、書評シリーズの中でもっともアクセスが多いのは「「ちんぽ問題」から「まんこ問題」へ—『夫のちんぽが入らない』における「ちんぽ」の考察 2」です。世の中は案外簡単にできています。アクセスが増えなくてお悩みの方々はお試しください。

『夫のちんぽが入らない』と『妻のまんこに入らない—新潮社の不思議 3」の最後に「続く」とあるように、実はあれには続きがあります。とっくに書いてあったのですが、出すのをやめました。「ビバノン」ではよくあることです。読む人が少ないとやる気をなくして出すのをやめてしまうことがもっとも多いのですが、この場合は「松沢は新潮社とのつきあいで、ヨイショをしてやがる」と思われそうなので、この辺にしておくかと。

最後は「週刊新潮」を取り上げて、「一般には『週刊新潮』は権力に媚びる糞雑誌と思われているが、それは新潮社の体質とはちょっと違う」という説明をしたものなのですが、今年の頭の時点では、そう言っても説得力がなかったと思います。

しかし、皆さん御存知のように、このところの「週刊新潮」は今までと違うじゃないですか。はっきり反安倍政権の色を強めています。それこそ「読売新聞」の対極に位置していて、「どうしちゃったんだ」という声をよく聞きます。直接には編集長が交替したためなのですが、あくまであれは新潮社という会社の揺れ幅の中での転換です。

以下に「今の『週刊新潮』は読む気もしない」と書いていますが、今年1月の時点で書いたものであり、今もっとも面白いのは「週刊新潮」じゃないですかね。

こうなったが故に、私の書くことに説得力もあろうかと思い、書いてあった4回目を出しておくことにしました。

 

 

「週刊新潮」に見る新潮社の体質

 

vivanon_sentence前回書いた新潮社の体質は、「週刊新潮」を見るとわかります。今の「週刊新潮」は読む気もしないですが、昔の「週刊新潮」は面白いのですよ。もちろん、リアルタイムに読んでいたのではなくて、あとになって調べものをする過程で読んだのですけど、かつての「週刊新潮」は今と違います。しかし、根幹にある体質みたいなものは一貫していて、そこがあまり理解されていないかもしれない。

「週刊新潮」は、1956(昭和31)年創刊です。当時は「週刊誌ブーム」と言われ、続々週刊誌が創刊されています。版元の多くは出版社です。出版社系週刊誌は「対新聞社」が大きなテーマでした。

それまで報道は新聞が牛耳ってました。ラジオもありましたし、テレビも始まってますが、これはNHKが独占です。対して印刷物では新聞が王様でした。

週刊誌も新聞社が「週刊朝日」「サンデー毎日」を出していて(いずれも1922年創刊)、それぞれ月刊版も出していました。出版社も月刊誌では後追いできるとは言え、報道で正面から闘うことは難しく、どちらかと言えば娯楽性で勝負。

そこに出版社が殴り込みをかけたのが昭和30年代前半に起こった空前の週刊誌ブームでありました。

※撮ってあった写真から引っぱり出したものなので、いつ発行の号か不明ですが、創刊から数年内だろうと思います。

 

 

週刊誌ブームに創刊された週刊誌の役割

 

vivanon_sentence週刊サンケイ」は、1952年創刊で、「週刊誌ブーム」よりも少し前の創刊。「週刊読売」は「月刊読売」の方が先で、「週刊誌ブーム」の1957年に追って「週刊読売」がスタートしています。

また、東京新聞の「週刊東京」のように、この時期に創刊された新聞社系週刊誌もありましたが(新聞社発行にもかかわらず、はっきりと新聞とは一線を画した「週刊東京」が私は好きなのですが、短期で終わってしまったのが残念。今も残っていて欲しかった)、それらを含めて、差別化をするために、既存の新聞社が取り上げないネタを出版社系週刊誌は積極的に取り上げる必然性がありました。

新聞社が建前の記事を作るのに対して、出版社系週刊誌は、ホンネの記事を作る。取材力がないためだったりするわけですが。

これによって棲み分けがはっきりします。それまでは新聞社系も、社会問題、社会現象としてではあれ、広く性風俗ネタを取り上げていたのですが、これは週刊誌の得意分野となって、新聞社系の週刊誌からは消えていきます。こうして、いよいよ新聞社系は建前の公序良俗雑誌になっていき、今に至ります。

昨今、「週刊文春」が芸能界のスキャンダル路線になっていることを批判するムキがありますが、これは出版社系週刊誌らしい切り口だとも言えます。お上品ではないのが出版社系週刊誌。テレビはズブズブに利害関係があるために無視を決め込み、新聞も自分の領域ではないとして無関心になりがちな芸能界の問題を暴くのは正しい。現に芸能人は社会的影響力があるのですから、公益性があります。

 

 

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