松沢呉一のビバノン・ライフ

「お妾クラブ」「出会い系バー」「接待クラブ」に共通するもの—「りべらる」より-(松沢呉一)-2,988文字-

 

「接待クラブ」に通じる「お妾クラブ」

 

vivanon_sentence出会い系バーに来ている女たちに対する私の感触」と近いこと、あるいは女子大生が言っていた「接待クラブに来ている女たちに対する感触」と近いことが書かれているのを、今から半世紀以上前の雑誌に見つけたことがあります。

雑誌「りべらる」(太虚堂書房)昭和二四年十月号に掲載された影浦憲「お妾を志願する娘たち」です。影浦憲は「りべらる」など、昭和二十年代から三十年代にかけて実話系雑誌によく書いていた人物で、著書もあります。

この「お妾を志願する娘たち」は「お妾クラブ」を取材したものです。

筆者の知人がやっている会社に勤務していたK子と銀座でバッタリと再会、話を聞いたら事務員をしながら、妾をやっていると言います。

この冒頭は「知られざる接待クラブ」の展開に似てます。私の原稿ではカラオケに行った時に話し出したことになってますが、実際には一年ぶりくらいで道でバッタリ彼女に会って、その時の立ち話で「最近どうしているの?」「接待クラブにいたよ」というやりとりがあり、その時は時間がなかったため、後日、話を聞くために改めて会い、メシを食ってカラオケボックスに行ってます。この経緯を書いたところで身元がわかるわけではないですが、「どこの誰かわからないようにして欲しい」と言われると、全部書き換えてしまう癖があります。

なんでこのことを思い出したのかと言うと、彼女にバッタリ会った時のことを当時ネットに書いていたのを自分のPCで発見しました。

その点、この記事の場合、K子がどこの誰かわかってしまう人もいたのではないかと心配にならないではないですが、影浦憲はわからないようにするために「知人がやっている会社に勤務していた」という噓を書いたのかもしれない。

この「お妾クラブ」はまさに愛人バンクです。「こんな時代からあったのか」と驚くところですが、戦前は桂庵(職業紹介業)がこの役割を果たしていて、「お見合いから妾紹介まで」という顔の広いおばちゃんが町内にはいたものです。

K子が属する「お妾クラブ」では、男の会員と女の会員が一ヶ月単位で契約。朝から晩まで家で主婦のようにふるまう契約だと一ヶ月一万円、夜の相手だけする契約だと一ヶ月六千円。前者は全生活を拘束されれて、いつ「旦那」が家に来ても相手をしなければならず、後者は特定の時間だけ相手をすればいい。こちらは「接待クラブ」の愛人契約みたいなもんです。

りべらる」の定価は六十五円です。雑誌は今よりも高いですから、当時の円を二十倍くらいにすると今の価格というところでしょうか。前者は月に二十万円、後者は十二万円。安い。後者はまだしも、前者が安過ぎです。K子のように他に収入があった上で、時々夜の相手をして副収入にするのであれば月に十二万円でもいいとして。

しかも、金を払う男は相手を選べますが、女は選べないことになっています。妾の値段は安くて、言いなりということでありましょう。

※この記事が掲載された「りべらる」は、この表紙の号ではないのですが、参考までに。

 

 

「お妾クラブ」に来ている女たち

 

vivanon_sentenceこの話に興味をもった筆者は、彼女に教えてもらった「お妾クラブ」を訪れます。場所は虎ノ門。

 

 

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