松沢呉一のビバノン・ライフ

昭和は回転ベッドとともに遠くなる—パセラ・グループ急成長-[ビバノン循環湯 274] (松沢呉一) -4,306文字-


以前書いたようにパセラ・グループはすごいわ。歌舞伎町のどこに行ってもパセラと系列のラブホBali Anを見ますし、その数がどんどん増えてます。

私はカラオケボックスの中で、曲数の多いパセラがもっとも好きなのですけど、ひとつだけ腹の立ったことがあります。おそらく都内で最後に残った回転ベッドのあるラブホが昨年取り壊され、何になるんだろうと思ったら、パセラ系列のPutit Bali( Bali An の小型版)になってしまったのです。

ここは以前は「ホテル・オーイシ」。その後、経営が変わったらしく、「ホテル新宿」(「新宿ホテル」だったかも)になりましたが、その時も回転ベッドは健在。回転ベッドの部屋は人気だったのですが、周辺のホテルが次々新しくなっていく中ではなにぶんにも古くて、他の部屋の回転率が悪かったのだろうと思います。回転ベッドがないと部屋も回転しない。

本文にあるように回転ベッドは鏡があるため撮影しにくいのですが、撮影に協力的なホテルでした。拙著『風俗見聞録』収録の原稿でも回転ベッドの撮影に使用していて、思い出深いホテルであり、「また昭和が終わった」とPutit Baliの前で佇む毎日です。ずっと佇まれても迷惑でしょうけど。

つうことで、最初に「オーイシ」を利用した時に書いたものを循環しておきます。どこに書いたか忘れました。20年くらい前の原稿だと思います。

写真はパセラ特集です。

 

 

 

文庫用の撮影

 

vivanon_sentenceこの歳になっても、初体験というのはいろいろとあるものだ。昨年暮れに、『風俗就職読本』(徳間文庫)用に、「リッチドール」のナンバーワン大空舞ちゃんとナンバーツーの流花ちゃんに写真を撮らせてもらった。『風俗就職読本』は、一昨年、創出版から出た『風俗バンザイ』を改題したもの。

この本は、私の本としては珍しく読者からの反響が多く、送られてきた手紙は、全員が風俗嬢希望者、現役風俗嬢、元風俗嬢からのものであった。風俗嬢のために書いたような本ですからね。

『風俗バンザイ』には、池袋の性感ヘルス「フレッシュメロン」の満里奈ちゃんとひなちゃんの写真を添えていたのだが、二人とも既に辞めているため、そのまま使用するわけにはいかなくなった。満里奈ちゃんは現在OLをやっていて、ひなちゃんは別の店に今もいるらしいのだが、どこの店か知らない。

舞ちゃんは今まで何度か取材させてもらっているのだが、流花ちゃんはこの時が初対面。彼女は読書好きで、『風俗バンザイ』も読んでくれていて、文庫に自分が出るのは光栄とまで言ってくれて、こっちこそ光栄。

この撮影は、歌舞伎町のラブホテルを使用した。

 

 

歌舞伎町のラブホエリア

 

vivanon_sentence歌舞伎町のホテル街は大きく二つあって、ひとつは歌舞伎町を大久保方面に向かった一角で、私はこちらを「ホテル街A地区」と呼んでいる。もうひとつは区役所通りと明治通りの間で、こちらが「B地区」。ビーチク。

「A地区」はホテル利用者以外も通り抜けるために人通りが多く、対して「B地区」は静かで落ち着いた雰囲気。 「A地区」の方がやっぱり利用者が多いのか、カラオケはもちろんジャクジーなどの最新設備が充実した新しいホテルが主流だが、「B地区」は築数十年の古いホテルがたくさん残っている(※現在はほとんどが建て替えられている)。

客層も若干違っていて、「A地区」は若い一見さんが多いのに対し、「B地区」は、古くからこの街に馴染んだ高年齢カップルの姿が目立つ。とくに早い時間帯。

歌舞伎町の風俗関係者によると、歌舞伎町のホストたちは「B地区」を利用するのが多いそうで、朝方、見るからにホスト風の男と、風俗嬢やホステスのカップルが出入りするところを見ることができる。ホストクラブは「A地区」の周辺に点在しているため、あちらを利用すると、他の客に見られて都合が悪いためだろう。

 

 

回転ベッドのあるラブホ

 

vivanon_sentence今回の撮影で利用した「オーイシ」は「B地区」にあって、私自身、「B地区」のホテルに入ったのはこれが初めて。

部屋に入ってわかったのだが、ここの207号室と307号室には回転ベッドがある。若い世代は知らないだろうが、かつてラブホテルでは回転ベッドが大流行して、老いも若きもグルグル回りながらハメたんである。高度成長期にラブホテルは全国各地に雨後の筍のごとく林立したが、その普及に回転ベットは大いに貢献したというわけだ。

ところが、風営法改正によって、新規で回転ベッドが設置できなくなってしまった。地方に行くと今でも残っていたりするが、頻繁に内装を変えたり、建て替えたりすることの多い都市部ではどんどん姿を消し、ホテルの人によると、風営法改正から十年以上経った現在、都内で回転ベッドを残しているのはどうやらここだけらしい(その後練馬区にも残っているとの話を聞いたが、未確認)。

「お客さんによると、今はうちだけで、あとは千葉まで行かないとないらしいです。他にないためなのか、回転ベッドの部屋は人気がありますね」

念のため、東京のラブホテル事情にむちゃくちゃ詳しいAV嬢兼風俗嬢に電話してみた。

「はいはい、私もオーイシは行ったことがあるよ。9年くらい前に足立区にも回転ベッドがあって、私も当時の彼氏と回したことがあったけど(笑)、今はもうないんじゃないかな」

ラブホテルのことだったら、彼女に聞くと何でも知っている。彼女はフェラの研究家でもあって、フェラテクには定評がある。また、男の精液についても一家言ある。ザーメンソムリエの称号をもってますからね。

撮影では307号室と308号室を使用。回転ベッドは周りが鏡になっているためにストロボを使い辛い。また、鏡に人が写り込んでしまって307号室では風呂しか使わず、『風俗就職読本』では回転ベッドは写っていないのだが、風呂もガラス張りでいいですよ。舞ちゃんと流花ちゃんも「おもしろーい」と喜んでおりました。

※上は横浜にあるパセラのコーヒー店。ハニトー(パセラ名物ハニートースト)もあります。下はパセラ系列のSQUALL。肉料理のレストラン。ファミレスっぽくもあるのだけれど、キャバクラ、ホストクラブ、ヘルス関係の利用者多数。

 

 

回転してみました

 

vivanon_sentence実はこの私も回転ベッドは使ったことがない。そこで回転ベッド体験をしてみることにした。

撮影の数日後、ダチの小娘に電話をした。

「ねえねえ、一緒に回転しないか?」

「いいよ」とあっさり承諾。

「オレは回転ベッドを体験したことがないんだよ」

「えー、松沢さん、今まで何してたの? うちの実家の近くには今でもあるから、高校の時によく使ってたよ。ボタンが3つあって、ひとつが右回り、もうひとつが左回り、もうひとつがストップで」

……ムチャクチャ詳しい。彼女もラブホマニアだったのである。

その夜、うまい具合に307号室が空いていたので、彼女としけこんだ。

「もっとボロボロのホテルかと思ったら、広くてきれいじゃん。ガラス張りのお風呂もいいね。でも、BGMがないのがマイナスポイントかな」

ラブホ好きの女子は、ラブホに入ってすぐに洗面所のアメニティをチェックする流派と、ベッドの上のパネルをチェックしてBGMを入れる流派とに二分される。この彼女は後者。ちなみに私はすぐに風呂場に行って広さと設備をチェックする流派。

「うちの田舎にある回転ベッドは、上下にボタンがついていたけど、ここは横だね」

チェックが細かい。

「じゃあ、さっそくやるか」

「セックスまでするんだ」

「してみないとわからんからな」

※東新宿にあるパセラの巨大看板

 

 

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