高度成長期の家庭内エロ—ネグリジェとnegligee[上]- (松沢呉一) -2,930文字-
この原稿はネットの連載用に十年くらい前に書いたものが元です。そこでは高度成長期のネグリジェの役割と、簡単に英語のnegligeeと日本語のネグリジェの違いを書いていたのですが、改めて調べているうちに四倍くらいの長さになってしまったので、「ビバノン循環湯」は外しました。
新婚若奥さまはたいていネグリジェの時代
今時の女たちは、トレーナーやTシャツで寝る。冬はジャージだ。その方がゴミを出すにもコンビニに買い物に行くにもイヌの散歩をするにも便利なわけだが、部屋着と寝間着と外出着の境界線がなくなって、色気というものがなさすぎると内心思っている男たちは多いことだろう。
これこそがセックスレス、少子化を進行させている。国家の存亡の危機である。
昔の女たちは家庭でも色気があった。今はあまり耳にしなくなったが、ネグリジェなるものを着ていた時代があったのである。今の時代にも、夫はパジャマの上にガウンを羽織って葉巻を吸いながらブランデーグラスを手にし、妻はネグリジェを心がけたい。
「結婚手帖」(手帖社)昭和39年3月臨時増刊号「花嫁秘帖」にも、ネグリジェの話が多数出ていて、夫をその気にさせるアイデア満載の「新婚若奥さまのチャーミング艶技集」にはこうある。
新婚若奥さまのお寝巻きは、たいていはネグリジェでしょう。都会のアパート生活、団地生活なんかでは、よく、透き通るような薄地のピンクのネグリジェが干してあるのをみかけますが、それをお召しになる奥さまの、なやましく美しいお姿が目に浮かぶようです。
私はネグリジェという言葉に馴染みのある世代だが、新婚若奥さまは「たいていはネグリジェ」だったとは知らなかった。そんなにか。昔の若夫婦はやる気満々だったんですな。
「夫婦生活」を出していた夫婦生活社が家庭新社となり、それがさらに手帖社になったはず。「夫婦生活」の別冊として出された「寝室手帖」という雑誌があり、そこから派生したのが「結婚手帖」や「女の手帖」。「結婚手帖」は「夫婦生活」がそうであったように、夫婦で読むセックス読本という体裁になっている。ただのエロ本として購入していた人たちもいたろうが、それが体裁に過ぎなくても、「夫婦が読むエロ本」が存在していた時代である。家庭はエロであった。
エロ本だから、扇情的な内容になるのは当然なのだが、半分くらいはこの記述は正しそうだ。
※図版は英国の通販サイトより。日本で言うネグリジェですが、この商品にはnegligeeという言葉は使われてません。詳しくは以下参照。
本来のネグリジェの意味
ここにあるように「透き通るような薄地のピンクのネグリジェ」というのがネグリジェの典型的イメージだ。水色だったり、白だったりもするが、ポリエステルかシルクのスケスケのものがネグリジェ。
しかし、このネグリジェ・イメージは英語のネグリジェという言葉とは相当にズレてしまっている。
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