松沢呉一のビバノン・ライフ

何事もなかったように—六年目にして初めてのプレイ 下-[ビバノン循環湯 301] (松沢呉一) -4,294文字-

私と遊んでって—六年目にして初めてのプレイ 上」の続きです。

 

 

 

気分を出して

 

vivanon_sentence彼女は私の手を引いてシャワールームに移動する。よくある小さなシャワールームだ。

イソジンでうがいをしたあと、神沢は何も言わず、いきなりキスをしてきて、舌をからめてきた。

「そのキス、いやらしいよ」

「気分を出してみた。ねえ、楽しも」

「あいよ」

キスでお返しをした。

「ねえ、大きくなってるよ」

「うん、意外にもあっさりと」

「嬉しいかも」

神沢はボディソープをつけてしごく。自分の体にもボディソープをつけて体を密着させ、対面の素股をする。

「おねえさん、やるね」

「私、ちょっとの間、ソープにいたじゃん。肌が弱くて、すぐ辞めたけど。あの時にボディ洗いを覚えたんだよ」

「あ、今、思い出した。ソープで働く時に、不安だから初日に来てくれって電話をくれたじゃないか」

この話は当時原稿にもしているが、彼女はヘルスからソープに行くことになって、私のところに電話をしてきたのだ。

「そういうこともあったよね。ソープでは働いたことがなかったから、すっごい不安でさ。松ちゃんが来てくれると思ったら急にホッとして、ソープで働く決断がついたんだよ」

結局、働き初めて数日経ってから電話があって、私は必要がなかったみたい。

「あの時、行く気満々だったのに、ちょっと残念だったな」

「ホントに来てくれる気だったんだ」

「そりゃ、神沢の窮状を助けに行かなきゃとヒーロー気分だったよ」

「あの時はありがたかったよ。ソープに行くことは誰にも言えなかったから。でも、いざとなると、こっちも照れくさかったし。ほらー、そんな話をするから、縮んじゃったよ。昔話はあとにしよ」

彼女はしゃがんでくわえこむ。

「続きは部屋で。先に戻っていて」

彼女の体についたスタイルだろう。先に客を戻して、自分の体は自分で洗う。私は洗ってあげるのが好きだが、ここは彼女のやり方を尊重する。

※写真の店ではなかったが、彼女が短期間働いたのは池袋のソープランド

 

 

どう知り合うかでのちのちが決定する

 

vivanon_sentence風俗ライターをやっていると、当然、風俗嬢たちと仲良くなることがある。仕事という接点から、今度は知人、友人としてのつきあいが始まることもあるわけだが、ひとたび友人としてのつきあいが始まると、セックスの関係にはなりにくい。

通常の人間関係においても友人関係に至るとそうはなりにくいが、風俗嬢として知り合っていると、それ以上にどこかでセーブが働いているようにも思う。

時には男と女の恋愛やセックスとしてのつきあいになることもあるわけだが、この場合は、店でプレイをしている場合に限る。ここで一度しておくと、どういうもんだか、友だち関係になってもセックスをしてしまうことがある。ハードルが低くなるのだ。もちろん、これは人によりけりで、店で接客した相手とはそれ以外では絶対にそうはならないというルールになっているのもいる。

その体験がないまま知人、友人領域に入っていると、「風俗店に行ったら知り合いが出てきた」という感覚に近づいて、「ちょっと無理」ということになりやすい。

完全にその領域に入っていたはずの神沢と私の関係がどう組み替えられるのか、私はこの体験を面白く受け入れていた。

戻ってきた神沢はすぐに照明を暗くした。

「暗過ぎないか」

「私、明るいのが苦手なんだよね。何年やっても恥ずかしくて。この仕事を八年くらいやってきて、いまさら言うことじゃないけど、私は風俗嬢に向いてないかもしれないって時々思うよ。仕事だからできるとも思うんだけど、仕事だから恥ずかしくないわけではない。そういう意味では素なのかなと思うし」

「プライベートでも明るくしないんだ」

「相手によるけど、自分としては暗い方が没頭できる。松ちゃんは平気でしょ」

「全然平気。というか、ある程度明るい方がいい。顔とか表情を見た方が興奮できるので」

「明るくする?」

「いや、神沢がやりやすいようにしていいよ」

彼女はそのまま私の横に来た。

「じゃあ、横になってください。松ちゃんが攻め好きだとわかっているけど、一応、私のサービスも受けてよ」

※焼け跡のマーケットの雰囲気を今も残す美久仁小路

 

 

神沢の提案

 

vivanon_sentence私はベッドに横たわった。暗がりの中で神沢はタオルを外して上に乗ってキスをしてくる。さっきと違って事務的なキスだ。これが普段の彼女の仕事ぶりってわけだ。全身リップは限りなくソフト。フェラも舌先を使ったソフトタッチ。これが正しいのだが、ワイルドなのが好きな私としては物足りない。

立ちの悪さを見て、彼女はこう言った。

「ナメる?」

「モチ」

 

 

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