松沢呉一のビバノン・ライフ

ソープへ、そしてAVへ—いい子は堕ちる 下-[ビバノン循環湯 308] (松沢呉一) -4,035文字-

月に百万以上稼いでも足りない貢ぎ女—いい子は堕ちる 上」の続きです。

 

 

売れっ子の陥穽

 

vivanon_sentence彼女はまさかこんなことを店にも知られてしまっているとはまったく気づいておらず、東京に戻ってくる可能性が大である。こういう女だから、男から「戻って来てくれ」と言われたら、言いなりになって家を捨てることだろう。

店長はこのことで「二度と雇わない」と断言しているが、彼女くらいの売れっ子なら、どこか雇ってくれる店はありそうだ。ただし、彼女が思っているであろうほど簡単ではない。キャリアの長いのが面接に来ても、採用しない店が多いものだ。

とくに長い間顔出しして稼いでいると、「自分は雑誌に出れば確実に稼げる」と勘違いしていることが多く、使いにくいのだ。顔出しができると最初は店も優遇するから、ここで自分の能力と勘違いしてしまいがちだ。

しかし、雑誌に出ることは、確実に自分の価値を目減りさせることだ。芸能人でも、私らライターでも、名前を売ることは、自分の名前を消費させることになる。その消費分を越えるだけの能力を常に出していかないと、消耗された名前を見ただけで、「ああ、あの人はもういいよ」ということになってしまう。

同様に、風俗嬢は、顔を出せば出すほど雑誌に出る価値が減っていく。一部の例外を除けば、AV嬢の寿命が一年から二年程度であるように、読者がその風俗嬢の写真を見ても、「また、こいつか」「まだやっているのか」で終わってしまい、雑誌に出る効果は着実に落ちていく。

同じ顔を毎号出しても、呼べる客数は減って行く一方なのだから、店としては、いつまでも古株に出てもらうより、新人に出てもらった方がいい。雑誌側もまた一度巻頭グラビアに使うと敬遠する。

商売として考えると、店が新人優先することはしょうがなく、勘違いした元人気風俗嬢よりも新人を発掘して育てた方がずっといいということになる。

 

 

売れなくなるとショバを変更

 

vivanon_sentenceこの辺りのことをよくわかっていると、短期間雑誌に出て客を呼び、そこで来た客を常連として確保し、あとは雑誌に一切出ない方法をとる。賢明だ。

それをわかっていないと、「雑誌に出さえすれば客が来る」とばかりに、本指名を稼ぐ努力をしていないため、客の評判はよくなく、しかし、本人としては過去の栄光にすがっているので、「この店は稼げない」「しっかり雑誌に売り込んでくれない」「えこ贔屓して、自分には客を回してくれない」「私は顔出ししているのに、冷遇されている」なんてことを言い出して、店としてはもっとも使いにくいタイプになってしまう。

風俗嬢の場合は、短期で金を稼がせるという発想を店側もしがちなため、その間はひたすらヨイショして働いてもらうことになり、勘違いする度合いが高いとは言える。顔出しはあくまで副次的な要素でしかなく、どんなにルックスがよくても、それで稼げるのは一年か二年、その間に金を貯めてさっさとやめるか、長く続けるのであればノウハウを身につけ、常連を蓄積する努力をしないと、消費されし切って使い物にならない風俗嬢になりがちだ。

こういった風俗嬢たちの存在によって、店は「この業界に長い女たちは使えない」と言いたがり、いよいよ風俗嬢の寿命が短くなってしまう。本当はそんなことないのに。

こうなった風俗嬢は、次はソープということになる。マーケットが違うから、また新人扱いで働ける。これまで本番をやっていなかった人気ヘルス嬢がソープに移ったということでの付加価値もつく。

まして、貢ぎ女の場合は、男もより貢がせるために、ソープで働くのを歓迎し、自然とソープに流れる。あくまで傾向にしか過ぎないのだが、こうして、率としては、やはりヘルス嬢よりソープ嬢に貢ぎ女が多くなってしまう。

たぶんRちゃんはやはりソープに復帰だろう。

 

 

案の定ソープで働き出した

 

vivanon_sentenceこの予想は見事的中した。彼女は何事もなかったように店に連絡をしてきたのだ。店長は私に言っていた通り、「うちでは無理だよ」と断り、彼女はソープで働き出した。高級店ではなく、大衆店だ。しかも歌舞伎町。しかし、わざわざ会いに行くほどの興味はない。

 

 

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