松沢呉一のビバノン・ライフ

結婚と本番—エロにまつわる各種聞き違い-[ビバノン循環湯 331] (松沢呉一) -3,742文字-

10年以上前にネットの連載に出したもの。まだ公開されているかも。

 

 

 

そろそろ結婚しようよ

 

vivanon_sentenceある娘さんと裸でイチャイチャしていた時のこと。彼女が突然こう言った。

「ねえねえ、そろそろ結婚しようよ」

ナニー? そんなこと急に言われても。

彼女とはつきあいが長く、とても気が合う。スケベっ子だし。でも、彼女のことはよく知らない。何度も会っていて、セックスまでしているのだから、知らないはずもないのだが、男関係とか、家族のこととか、全然知らないのである。聞いたこともなければ、あっちも言わない。

ただ、「正月は海外で過ごしちゃった」なんて話から、「ああ、男と行ったんだろうな」と判断してはいて、はっきりとした根拠があるわけではないのだが、つき合っている男がいるんだろうと理解していた。彼女のキャラからして、また、その物腰の上品さから、わりあいといいとこの家庭で育ったことが想像でき、まっとうなサラリーマンとつき合ったりしてんじゃないかとも思ったりはするのだが、このコに限らず、彼がいるとかいないとか、結婚しているとかいないとか、そういうのって私にとってはどうでもいいので、気にしたことさえないんである。

いずれはそういう男と結婚し、そんな素振りは微塵も見せずに、適当にダンナ以外の男とも遊ぶことになると私は予想している。現に今も彼氏でもない私と遊んでいるように、そうは見えないが、あっさりと、かつバレないようにうまいこと浮気をしそうなコなのである。彼女とは共通の知り合いもいるのだが、その人物とて、まっさか私と彼女が下半身で遊んでいるなんて疑いもしてないことだろう。

ああ、それなのに、なんでまた私と結婚したいなんて思ったのだろうか。彼女は私がエロライターであることも知っていて(たぶん原稿は読んだことがないと思うが)、私の出演している深夜テレビも時々見てくれている。私を誤解しているわけではないのである。ことによると、長年つき合っている彼氏にふられて自暴自棄になっているのだろうか。

いずれにしても、私は今のところ結婚する気はなく、いくら気の合う彼女であっても、それはできない相談である。

私は「あー、それは」と言い淀んだ。どうでもいい女だったら、「バカ」と言っておしまいだが、そう言い放てるタイプの相手でもない。セックスをしているだけで、恋愛感情がないというわけもなく、「好きか嫌いか」と問われれば「好き」とすぐに答えられるくらいの関係なだけに、彼女のこの発言には本当に困り果てた。

とにかく唐突すぎて、私はどう対処していいのかわからない。

そしたら、彼女はこう言った。

「早くカップル喫茶に連れてってよ」

カップル喫茶? カップル喫茶で結納を交わすのか。カップル喫茶と結婚がどう関係しているのかわからず、いよいよ困惑して、私はただただ黙ることしかできなかった。

「だって、前に行く計画を立てたでしょ」

 

 

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