松沢呉一のビバノン・ライフ

乳と共に去りぬ—悲しみのおっぱい 下-[ビバノン循環湯 315](松沢呉一) -3,154文字-

新宿大ガード脇で一瞬の再会—悲しみのおっぱい 上」の続きです。

 

 

 

ねえ、触って

 

vivanon_sentenceそれからしばらくして彼女に会いに行った。初めて行く秋葉原の店だ。うちから一時間ほどかかり、ちょっとした旅行気分である。 「おひさしぶりー」 と抱き合ったあと、さっそく私は服の上からオッパイを触った。

「調子はどう?」

「もう形も安定したみたい。早く見て欲しかったの」

彼女はブラをはずした。

「ねっ、きれいでしょ」

「ホントだ」

元はCカップで今はDカップといったところ。無理に大きくしなかったのがよかったようで、この程度なら、入れ乳かどうかすぐにはわかるまい。

「ねえ、触って」

彼女は私の手をとって、自分の乳にもっていく。手術したばかりということもあって、腫れ物を触るかのように手を添える程度だ。ないものを無理矢理膨らましたのではなく、もともとあった脂肪の下にバッグが入っているため、わかりにくくはあるのだが、やっぱり入れ乳。うーむ。入れない方がよかったのに。

「不自然じゃないでしょ」

「うん」

こういう時にどうもうまい具合にウソが言えない私である。かといって、「見た目はわからないけど、触ると、やっぱり入れ乳だな」と言うわけにもいかず、「うん」としか言えない。彼女が喜んでいるだけに、この話題にはこれ以上触れにくく、私はすぐに乳首をなめて、シャワーも浴びずにプレイに突入した。ここはいつもの通り。私は直前に風呂に入って風俗店に行くことにしていて、彼女とは「最初のシャワーはなし」というのが通例になっている。

たとえば、子どもを産んでダラダラに垂れてしぼんだ乳であれば、整形するのもまたよしだし、もっと素直に「大きくなってよかったね」と喜びを分かち合える。あるいは、最初から入れ乳だった場合は、いかに入れ乳嫌いの私でも、そういうものとして受け入れる。比較するものがないから、最初からそれが彼女だ。現にこういうケースで長いつきあいが続いたのがいる。

しかし、今回は、これまでのおっぱいがきれいだっただけに、「なんでこんなことを」と私は思わないではいられず、 いくら本人が望んでいたこととは言え、「ああ、もったいない」と私は心の中でため息をついた。

この気持ちは、自分の好みの顔をしていた子が「人はいいって言ってくれるんだけど、自分では好きになれない顔なの」と言って整形したら好みではなくなったと想像していただくとよりわかりやすいかもしれない。ブッサイクでも気に入っていたコが整形して自分の好みの美女になったら嬉しいかもしれないが、整形が成功して、客観的にいくらきれいになったとしても、今までの方が自分の好みであったなら、やっぱり淋しい。

「Statuette of a Royal (?) Woman with the Cartouches of Necho II on her Arms」

 

 

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(残り 2005文字/全文: 3194文字)

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