松沢呉一のビバノン・ライフ

梅毒と道徳主義者に要注意—STDを悪用する人たち 上-[ビバノン循環湯 324](松沢呉一) -2,672文字-

梅毒感染者が増えているみたいですね。SWASHが東京都と組んで梅毒の予防啓発活動をやっているので、私もなんか梅毒について書いたものを循環させておくかと思って検索したら、いくつか出てきました。

今回は2000年くらいにネットで書いたもので、「世界に広がる赤い傘—共感できるフェミニスト・共感できないフェミニスト 13」に出てくる英国のセックスワーカーの団体ECP(English Collective of Prostitutes)発行のパンフを紹介する内容です。

冒頭に「梅毒感染者が増えている」と私は書いてますが、データを見ると、私の周りで増えていただけかもしれない。

東京都における梅毒感染者の推移です。

 

 

 

 

2017年は8月半ばまでの数字ですから、単純な数字の比較では昨年より減りそうなのですが、同時期を比較すると、昨年を上回っているとのこと。12月1日の国際エイズデーに向けてのキャンペーンによって検査数が年末は増え、それに応じて届出数も増えるといった事情があるのだろうと思います。

この増加は全国的傾向です。詳しくは国立感染症研究所による「感染症発生動向調査で届出られた梅毒の概要」を参照のこと。

ここに出ているデータを見ると、半数以上の人が早期に症状が出て検査をした人たちと推測できますが、無症候の人たちが3分の1から4分の1程度います。症状は出ておらず、よって自覚もないながら、検査をしてみたら陽性だったと判明した人たちです。これには二種あります。

 

I期からII期への移行期、 II期の発疹消退期などに皮疹がみられない場合(潜伏梅毒)や、 陳旧性梅毒(既に治癒しているが血清反応のみ陽性)を無症候梅毒という。

 

梅毒の臨床症状、 検査と診断、 治療」より

 

梅毒はいったん症状が出ても、ほっとくと消えます。その時期が無症候のひとつ。もうひとつは自然治癒しているケースで、治癒しても陽性反応が出続けます。病院で治療してもこうなるわけですけど、最初に陽性になった段階で届出されるため、その数字はここには入っておらず、本人が気づかないまま自然治癒しているケースがあるみたい。

ただし、梅毒の場合は、時を経て発症することがあります。「感染症発生動向調査で届出られた梅毒の概要」のグラフにある「晩期顕症」というのがそれでしょう。数は少ないですが、若い時に感染し、長らく気づいていなかったのが、歳をとって発症することがありますので、自覚がなくても、「一度検査しとけ」ってことです。この場合は届出をした上で、以降、継続して検査をすることになりますので、面倒っちゃ面倒ですけど、放置するよりまし。

いずれにせよ以下の冒頭に出てくる「梅毒に感染する人が多い」というのは「私の知っている範囲」に限定しておきます。この「多い」という印象は、「性病座談会」に出てきた「梅毒さん」も要因になっていて、それ以外でも感染した人が身近に二名いたことがわかったためです。感染したのはもっと前だったりもしますし、「計三人かよ」って話ですが、それまでは直接そんな話を聞いたことがなかったものですから。

これを言うための前置が長くなってしまったので、二回に分けます。メインは次回ですので、今回は飛ばしてもかまいません。

 

 

 

田村○作さんの場合

 

vivanon_sentence梅毒に感染する人が多いっすね、近ごろ。

私なんぞは子どもを残す気もなく、家族もいませんから、梅毒に感染してもいいんですけど、他人に感染しなくなるまで下半身活動を控えなければならず、また、薬が強いため、執筆にも支障がでかねないのが困ります。それでもすぐに治療すれば鼻がもげることはありません。

楽しく、気持ちのいい性生活を続けるために、皆さんも、予防と早期発見・早期治療を心がけましょう。セックス以外でも感染することがありますから、セックスしなくてもたまには検査を受けておくとよいと思います。

さもなくば、こんなんになっちゃいますよ。

 

 

田中友治著『輓近ニ於ケル花柳病診断及療法』(1910年・明治43年/南江堂書店)より

 

※この当時はうちにある本から図版を出していたのですが、本も写真も見つからないので、国会図書館が公開している同じ本のSSです。

 

 

明治時代も今も早期発見・早期治療

 

vivanon_sentence田村さん、こんなんになる前に、病院に行かないとダメじゃないですか(患者名が本に記載されています)。

何もこんな古い本から図版を拾わなくてもいいのですけど、今の時代に、ここまで至る人はなかなかいないでしょう。

戦後のものでも患部の図版が出ているものはよくあって、中学校の時から、図書室でそういう図版を見るのが趣味でしたが、顔が崩れてきている写真は見た記憶がない。患者の人権という観点から出していない可能性もありますけど、おそらくここまでの患者がほとんどいなくなったためでしょう(第三期まで至る人は今も稀にいるらしいですけど、顔がこんなんになるまで放置する人はいないという意味)。

 

 

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