松沢呉一のビバノン・ライフ

割り切れないこと—スカーレットロード[7]- (松沢呉一) -2,819文字-

「障害者専門デリヘルの存在意義と限界—スカーレットロード [6]」の続きです。

「スカーレットロード」のパンフレットにAちゃんのコメントが入ることになったそうです。そちらも参照のこと。ここでちょっと問題がありまして、私の記憶が違っている箇所がありました。記憶力の悪い私が相当リアルに覚えているので、他の人に聞いた話とごっちゃになっているのだと思います。まっ、でもいいか、作り話ってわけではないので。私の記憶のまま進めますが、ここまでの話もこれからの話も複数の人に聞いたものが混じっている可能性があることをお断りします(その後、詳しくどこが違っていたのか本人に聞きまして、エピソード自体が間違えているのではありませんでした。長い追記を書いておきました)。

 

 

極々稀な例

 

vivanon_sentenceAちゃんの話で記憶に残っているエピソードがいくつかあって、彼女はソープランドにお客さんを連れていったことがあります。デリヘル嬢なのに、付添人。

これは泊まりの仕事です。ラブホではなく、障害者だと安くなるホテルでお泊まり。こういうホテルは障害者用に整備されているので安心して利用できます。そこでイチャイチャして、その翌日、吉原へ。どんだけ豪華。

「Aちゃんだけで十分だろ。オレだってそんな贅沢はしたことない」と思ったのですが、ソープランドという場所にファンタジーがあるのです。インターネットの登場でエロ情報をチェックしている障害者は少なくなくて、「ソープランドに行きたいけど、付き添いの人がいないと入れない」というので、こういう時にそちらも済ませるのが合理的。

その事情がわかると理解できます。経験したことのないことは経験したい。デリヘルでは挿入まではできないので、それもやりたい。写真や動画でしか観たことのないソープランドをこの目で見たい。単身で行けるんだったらいいのですが、そうはいかないので一度にクリアです。

長時間割引があるとは言え、安く見積もっても、全コースで30万円は使ってます。稀ではあるのですけど、収入はないのに金を持っているのがいるのです。親が亡くなって、その遺産だったり。

※「スカーレットロード」日本版パンフレット。私も書いてます。

 

 

どうしても割り切れないところ

 

vivanon_sentenceこの時だったか、別の時だったか、Aちゃんはこんなことを言っていたことがあります。

「金を稼いでいる人だったら、金を使わせても心は痛まないけど、働いていない障害者がハマり出すと心が痛む」

「他に使わないから」と、頻繁に指名してくれる時に、「いいのかなあ」と思ってしまう。その分、他で得られない時間を提供しているのだから、代価を得るのはなんら問題はないはずだし、実際、施設に入っていると、他で金はそんなに使わないですから、全部使っても困りはしないのでしょうけど、そうはシャキッと割り切れない。

一般の性風俗でも、「妻はもうおらず、子どもは独立しているので、財産を残してもしょうがない」と派手に使うお年寄りがいるのですけど、あと十年か二十年しか先がない人ならいいとして、まだ人生が半分残っているかもしれない人だと、「いいのかな」と思いますわね。将来画期的な技術が開発されて、障害を克服できる器具を買うことになるかもしれないのだし。

こういう時にどう感じるかも、人によっていろいろでしょうけど、タフじゃないとできない仕事です。

※Rachel Wotton 「スカーレットロード」より

 

 

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