松沢呉一のビバノン・ライフ

初めて生で見た陰毛[7]-毛から世界を見る 48- (松沢呉一) -2,582文字-

初めて生で見た陰毛[6]-毛から世界を見る 47」の続きです。「毛から世界を見る」内の銭湯シリーズはこれで終り。

 

 

 

行かないくせに惜しがる人たち

 

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新潮社の担当編集者も銭湯が好きで、毎週日曜日は家の近くの銭湯に行っているのですが、彼がこんなことを言ってました。

「あると利用しないのに、なくなると惜しまれる存在の筆頭が銭湯」

誰かが亡くなると、生きている時はなんの興味もなかったのに、急に「惜しい人が亡くなった」「時代が終わった」と言い出す人たちがいますよね。

銭湯がなくなったと聞くと、愛用していた人たちが惜しんだり、悲しんだりするのは当然として、銭湯なんて何年も行ってない人が急に惜しんだり、悲しんだりして、「銭湯は日本の文化だ。行政が支援できないのか」なんて言い出します。

ホントに興味があるんだったら、どんだけ税金を投下しているのか、どんだけ行政がサポートしているのか調べればいいのに。

サポートのない自治体もありますが、23区はどこもサポートしています。老人利用の入浴料を一部負担したり、場所を安く提供したり。比較的東京に銭湯が残っているのはそのためもありそう。それだけではないんですけどね。

それでも潰れるのです。東京でも大阪でも京都でも毎月どこかの銭湯が潰れています。多い時は東京だけで月に3軒も4軒も潰れています。

銭湯が残って欲しいと本気で思うなら、行けばいいのです。それだけで解決するのに行かないで、SNSで気の利いたことを言おうとして、ポーズで惜しがる人はむかつきますよ。

老人にとって、銭湯はライフラインです。だから行政も銭湯は残ってもらいたい。銭湯がなくなると困るので、ついには公営銭湯も出てきています。そのくらい減ってしまっているのです。

風呂のないアパートで一人で暮らしている老人にとっての意義はわかりやすいとして、家に風呂があっても銭湯に行く一人暮らしの老人が多いのは、そこが社交場であるとともに、家の風呂で倒れたら腐るまで気づかれないためです。死んだらせめて誰かに気づいて欲しい。

将来自分がそうなる可能性もあるのだから、今のうちから通って支えるべ。

※荒川区町屋のカネカ湯に出ていた閉店のお知らせ

 

 

30人客が増えれば潰れない

 

vivanon_sentence近隣で銭湯利用者が30人増えるだけで銭湯は潰れなくて済みます。毎日行く人、週に1回行く人とさまざまでしょうが、平均3日に1日の利用として、月にのべ300人。売り上げは13万8千円。

銭湯は客が増えてもほとんど経費が変わりません。水道代がちょっと増えるだけ。据え置きのボディソープやシャンプーの消費がちょっと増えるだけ。

月に10万円粗利が増えれば掃除のバイトを雇えます。老夫婦の体がきつくなってもやっていけるんです。ボイラーが壊れても直せるんです。剥げてきたペンキ絵を新しくできるんです。

板橋区の竹の湯のおっちゃんが、近所の花の湯が廃業することが決まった時に、こう言ってました。

「儲らないのに、それでも銭湯をやっているのは、みんな、銭湯が好きなんだよ。できることなら続けたい。でも、続けられないんだよ」

たった30人増えればいいだけ、銭湯が消えた時にポーズで嘆く人が全員銭湯に通えばいいだけ。

風呂に興味がなくても、銭湯によっては落語会をやったり、コンサートをやったりしています。そういう時に出掛けていって金を落とせばいい。

※これも目黒の元銭湯。ここは色遣いが面白い銭湯だったんですけどね。

 

 

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