結婚第一主義の小林一三と売春するデパートガール—女言葉の一世紀 84-(松沢呉一) -3,527文字-
「スウィートガールとデパートガール—女言葉の一世紀 83」の続きです。
小林一三の考え方
各百貨店は女店員が結婚のために次々と人がやめていくため、人材確保に四苦八苦していたわけですが、結婚を推奨していた百貨店もあります。阪急百貨店です。
阪急グループの総裁、小林一三の考えです。今はそんなことはないでしょうけど、宝塚少女歌劇でも「結婚第一主義」で、一日も早く結婚できるようにすることを方針とし、結婚することが女の幸せなのだから、結婚のために引退することを歓迎していました。
その考えを百貨店にも導入。
以下は小林一三著『私の行き方』(昭和十一年)より
これまで東京や大阪の有名な百貨店では、男子店員のためには寄宿舎や合宿所を設け、相当に注意を払ってきましたが、女店員に対しては、勤続年数が短くて、どうせ嫁入りまでの一時的な職業に過ぎないのだからといふ考へで、比較的冷淡に扱われてゐました。
併し、婦人の結婚期は次第に遅れ、殊に、生活のために働く婦人は、二十四、五歳くらゐまでは結婚しないのが普通なので、十四、五歳から約十年間は働き得るわけですから、決して、一時的な職業とはいへません。
さう考へると、男子の寄宿舎よりも、寧ろ女子の寄宿舎が必要なわけで、女店員としての訓練ばかりでなく、一家の主婦としての教育を授けてやらねばならぬことを痛感しました。
それで、私は、先づ女店員の寄宿舎を新築して、優良な女店員を選抜して、入会せしめ、ここにも、結婚第一主義を強調して、娘時代のあらゆる仕事は、すべて結婚の準備であることを了解させるやうにいたしました。
その結果は非常に良好で、これまで世間で考へられてゐたやうな百貨店の女店員とは、よほど違って、まことに家庭的な婦人を作ることができました。
併し、今日では薬が効きすぎて、お嫁さんを探すなら、阪急百貨店の女店員の中から探せ、などと世間で評判を立てられ、店に入って二、三年経ったくらゐの、これから大いに働いて貰ほうと期待してゐる女店員が、どしどしお嫁に行ってしまふので、多いに喜びながらも、いささかの心細い気がしないでもありません。
※小林一三著『私の行き方』(昭和十一年)より著者近影
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