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【無料記事/特別企画】「東京」と「FC東京」――佐山一郎に訊く(2015/02/19)

特別企画◆「東京」と「FC東京」――佐山一郎に訊く

東京を本拠地にしたプロスポーツクラブは何もFC東京などのサッカークラブだけではない。野球にしても、巨人やヤクルトだけではない。

その昔、駒沢球場をホームスタジアムとする東映フライヤーズという球団があった。Jのサポーターが発する罵倒がかわいく聞こえるほど、頻繁に下世話な野次が飛び交っていたらしい。球場は取り壊され、跡に駒沢オリンピック公園が建ち、東京オリンピックのサッカー競技、日本対アルゼンチンがおこなわれて世紀の大金星と相成ったのだから、野球とサッカーの陣取り合戦の地としても象徴的だ。

とにかく、東京でちょっとやんちゃな野郎が集う試合がそこにあったのである。

横浜フリューゲルスが消滅したあとに誕生した横浜FC、佐川急便東京SCと佐川急便大阪SCが消滅したあとに誕生した佐川急便SC(統合・滋賀移転二年めからSAGAWA SHIGA FC)ならば、経緯も手伝い“遷移”(移籍、というよりもこのイメージのほうが近いのではないか)したサポーターが何人もあらわれて当然だ。

しかし東映フライヤーズからFC東京に応援の対象を替えたファンが何人いるだろうか。

直接の関わりもなく、数十年の時を経て、しかも異なる競技だけに、フライヤーズを愛好していた人々がFC東京を応援しようと思い立つ姿は、存在するのかもしれないが、想像しにくい。

もしFC東京が東京に深く根ざしたクラブになっていれば話は別なのだが、残念ながら浸透度はそこまで高くない。

そもそも、FC東京は、東京都民、あるいは東京という土地にどれほど認知され、愛されているのだろうか。

インプレスR&Dから刊行されるサヤマ・ペーパーバックス(http://tougijo.tumblr.com/)第三弾『サッカー細見』(今春発売予定)の解説を書かせていただいた縁で話を訊く機会ができた、はえぬき東京都民にしてスポーツライティングを手がける佐山一郎氏の場合は――。

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「小学校四年くらい――と言えば、男の子が“最強”の時代じゃないですか? 学校の帰り道に傍らに寝転んで、大きな声を上げている子どもがいたりしますよね。それが五、六年生になると受験をする子もちらほらとあらわれておとなしくなっていくけれども、三、四年くらいは男子の絶頂期で、みんなが少年王国の王子さま(笑)。どうしちゃったの、こいつ、というくらいに元気がある。
その王子の時代に、東映フライヤーズを好きになってしまったんです。近所に暮らす水原(茂)監督を代理の祖父像、父性の象徴、あるいは国王のように観ていました。
でも、それも二、三年の出来事で、すぐ神宮球場に行ってしまったんですよね。

文芸評論家の磯田光一さんのご本に『思想としての東京』という名著があるのだけれども、どうにも忘れがたい箇所がある。特に下町、東のほうの人々が、地方から出てきた人々に対して微妙な感覚を持っていて、傍若無人に振る舞われたときに、思わず「この田舎者め!」と言いたくなる場合がある、と。でも、そういう態度もまた無粋で「東京人」らしくないから先住者特有の二重の屈託があるという指摘。地方の東京化と東京の地方化がもう70年代の終わり頃には完成していたということを東京育ちならではの感覚で述べておられたわけです。

ただ、そうした東京ネイティヴと地方出身者が多数混在している広い地域で、FC東京はFC東京なりに、深川から小平に移転しながら、チームを強くもし、経営も成り立たせ、いろいろと試みてがんばったと思いますよ。元祖サポーター集団・日本サッカー狂会の古参メンバーにも、好きになった方がいらっしゃいますしね。三年前くらいに東横線の都立大学駅の近くでお茶をしたあと、どこに行かれるのですかと訊ねたら、「調布に行きます」と。

サッカーというのは孤影悄然というか、愁殺されることの多い競技だから、時々いやになるの繰り返し。こりゃいかん、気分を変えようというとき、ぼくの場合は高校野球の春、夏、秋の大会に逃げることができるわけです。そういう環境があるから、正直なところFC東京への思い入れが育っていかない、野球人でもある阿久根謙司前社長はぼくの高校の後輩なんだけど(笑)」

佐山氏の言葉からも、現在のFC東京が置かれた状況が浮かび上がってくる。
選択肢が多い東京で、FC東京はオール東京ではなく、個別の選択肢だ。往年の東映フライヤーズであれば、巨人の監督だった水原茂がやってきて日本一に導いたチームだから、単独クラブでもそれなりに大きな存在だとの印象がつくが、FC東京はリーグ優勝を経験していない。
Only one ではなく One of them になっている。ここから脱するにはどうしたらいいのか。

「詳しい内部事情は知りませんが、様々な矛盾や改善しなければならないことがあるでしょう。それに優先順位をつけて整理していくことでしょうね。個人的には、あの陸上兼用スタジアムのきれいきれいな感じがどうもぴんと来ないですね。ぼくには、夕暮れ時の西が丘サッカー場で、ライトが点く頃に高校サッカーの決勝戦が終わって、初出場を目指して惜敗したほうの選手が泣いて泣いて泣きまくる、そんな光景が東京のサッカーらしい風情だなという感覚があるんです。誰だって選手の近くで観て魂のやり取りをしたいじゃないですか。駒沢も家から比較的近いだけで、あまり好きではないです。陸上用トラックに近すぎるコーナーアークのすぐ外側あたりで今に大けがをする選手が出てくると思っています。イングランド風の本場感覚を採り入れたサッカー専用のスタジアムをめざしていくのか、採算性重視で現状のままのなのか──。東京市長をつとめた後藤新平の<帝都復興計画>並みの大風呂敷を広げてもいいんじゃないですかね」

東京人的な世界に擦り寄るのか、それともそこを捨てて多くの地方出身者も分け隔てなく引き寄せる巨大なエンタテインメントをめざすのか。二者択一でなくてもよいのかもしれないが、いまのところ、FC東京の方向性が、どこかふわりと浮いた感じになっていることは否定出来ない。それを引き締めてひとつに集約する根っこがあるとすれば、東京ガスの気風になるのだろうが、FC東京として単独で立ち上がらなければ、これ以上の成長も難しい気はする。FC東京はそんなプレゼンスを示す時期に来ているのではないだろうか。

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