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【無料記事/ACL R16第1戦第3報】4-3-3のインサイドハーフで効いていた羽生直剛。外したシュートは「吉本に下手だと言われたので、練習しようかな」(2016/05/18)

4-3-3と表記するか4-1-4-1と表記するかは別にして、このシステムがふたつの出っ張りとふたつのラインでできていることは誰が見てもわかる。
たとえば後半30分(時計上は29分40秒)のシーン。上海上港の左コーナーキックをニアで徳永悠平がクリアしてからの流れでFC東京のカウンターになった。米本拓司が左サイドにボールを運ぶとこれは奪われるのだが、相手がゴールキーパーまで戻したボールをアンカーの高橋秀人が追っていった。そのままだと後方が空いてしまうので、トップの前田遼一がするすると前線に戻ると、高橋は前田よりも速足でアンカーの位置に戻っていく。このとき、ディフェンスは直線形、中盤は曲線形に、それぞれラインを形成して「4-4」のかたちをつくっている。このあと水沼宏太を田邉草民と交替させて東京は4-4-2へと移行するのだが、いずれにしても「4-4」でブロックをつくろうという意図がある。そして4-1-4-1のときは前述の、ブロックに干渉しないリベロのように動く前田と高橋の姿からは、トップとアンカー、ふたつの突起物が調整弁の役割を果たしているようにも見える。

高橋が中盤ラインと最終ラインのあいだで守備に専念することで「保険」となり、ほかの選手は前に出て行きやすくなる。またディフェンスの選手も負担が減り、役割が整理される。
城福浩監督は言う。
「守備のバランスと攻撃へのアグレッシヴさをどう出すかというときに、役割を明確にしてあげたほうが、むしろ前にも出やすい。うしろもそのぶん、バランスをとらなければいけない責任もあります。そういう意味では、役割がはっきりしたことで、お互いの声かけがもっと明確になってきたと感じています。クレバーな選手なので、高橋秀人も自分の役割をしっかりと認識して、チームを機能させるために、よく集中してくれたと思います」

この効果が2-1と勝ち越した場面にもあったと羽生直剛も口を揃える。
「いまアンカーをひとり置いてヒデ(高橋秀人)がしっかりやってくれているので、そのなかで出て行く、点を獲る、というときには枚数をかけたいとは、(チームの各自が)思っていること。得点するためには、ゴールに向かうプレー、追い越すプレーが大事だと思うし、最後、人数をかけるという意味では、前に人数も多かったと思うので、そこでズレて、大外が空いたという感じだと思う。練習でやっていたり意識していたことが出たシーンだったと思います」

攻撃参加人数を増やす練習をしていたというところも聞き捨てならないが、とにかく、トップの枚数を削ってでもアンカーを置いたことで現状のチームにはプラスの効果があるとわかったことが肝要だ。

アンカーを置くことでサイドバックやセンターバックが攻め上がれるようになるということのほかに、中盤の選手が思いきってプレッシャーをかけに行ける、ポジションを動かせるという利点もある。特にインサイドハーフ、この日は米本と羽生が猟犬となってボールを追ったが、羽生は加えて絶妙なポジションどりで連携を促し、攻守に連動性を高めていた。徳永が勝ち越し点をアシストするにいたった時間帯でもっとも躍動していたうちのひとりだし、その時間帯の始めに徳永からのボールをシュートしてもいる。

「とにかくみんなハードワークするというのは意思統一されているし、いまそれが大前提のなかで、結果がついてくるというのがわかっているので、それをやったうえで、攻撃になったときに、ぼく自身はいいポジションをとらないとプレーエリアを確保できないし、いいポジションを探しながら、受けたら、(そのときには)ボールに餓えている選手が周りにはいるので、そのひとに差し出してあげるという感覚でやっています。そのなかで周りにいるひとが、いつもよりボールを多く受けることができたと思ってくれれば、ぼく自身の仕事としては、ひとつやり遂げたというか、最低限のことをやったという認識でやっているので。ボールがつながったと見られるのであれば、Jリーグの相手よりも組織的かというとそうではないと思うし、ボールを動かせばもっと穴は開いてくるということは確認できたというか。その程度、ですね」
試合中、羽生の意識はこうなっていた。自分が動く、ボールを動くという基本を繰り返せば――しかし、今シーズンの東京は、それができていなかった。あるべき状態に戻ってきたという証明なのかもしれない。

このシステムでインサイドハーフが疲労困憊になるほど働けば中国の大きなクラブにも勝てることがわかった、と水を向けると、羽生は苦笑というよりは笑いを返してきた。
「(笑)。一試合勝てただけなので。勝ったことはすなおにうれしいですし、いまチームがなかなか勝てていない状況で勝ちにつなげられたことは、ひとつほっとした気持ちではありますけど」
セカンドレグが厳しいことは誰もが理解している。しかしそこに挑む準備として、勝って精神を整えられたことはプラスの要素だ。勝っていればこそ反省も引き締めもよりよいものになる。

後半18分、バーの上に逸れたシュートは当たりがよすぎて上がってしまったのか――と訊ねると、また笑い。
「下手すぎて上に上がりました。まあでも、いいところに置けたので、もう少しちゃんと振っていければよかったですね。吉本に『下手だ』って言われちゃったんで、練習しようかなと思います」
もしあのシュートが百発百中の精度を持つなら、羽生はスーパー羽生になってしまう! 言い換えれば羽生は、点を獲らなくても十分なほどによく働いていた。そしてその働きを促したのは、よく噛みあったシステムとメンバーがもたらす機能性なのだ。

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