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【無料記事/J1第13節第3報】Review◆上海での“失敗”を繰り返したのか? ボールを保持できなかった東京(2016/06/24)

【J1第13節】

◯責任論

まず浦和レッズに敗れた責任が誰に、どのように求められるか、短めにまとめておく。
試合前に「ずっとオーガナイズ、オーガナイズと、引いた感じになるとおそらく浦和の攻撃を抑えることはできないので、守備に於いてもアグレッシヴな面を見せられるといいと思う」と言い、引く時間が長くなるとどうなるかがわかっていたにもかかわらず、セカンドハーフの3失点を防げなかったという点に於いて、城福浩監督の責任は大きい。戦い方の大枠を定めて選手を指導するのは監督であるから、この場合、やはり責任を問われる。
城福監督は、試合後の共同記者会見では、「3点めのとどめを刺すためにバーンズ選手をそのまま残す選択肢はなかったのか」という質問に「仰るとおりです。結果論で言えば、仰るとおりです」と答えていた。内部の事情がいろいろあるのは当然だが、プロはそれを言い訳にせず結果を残さなければならないし、外部からは結果で判断するしかない。
選手の責任はどこまで問えるのか。羽生直剛はシンプルに「弱いだけです」と言っていたが、体力、技術、戦術面はひとまず置いておくとしても、メンタルが弱いことは確かだろう。
その弱さが、性格面を重視して選手を獲得するという方針や、練習場やクラブハウスの雰囲気、長年培った気風に由来するものだとすれば、その責任はクラブにある。
そして外部からこうした穏健さと表裏一体の弱さを許容してきた、自分を含むメディアの責任もある。自戒して仕事に当たりたい。

◯システム、戦い方、交替策

この日の戦い方は浦和に勝つために特化したものだった。
アンカーを置かない4-4-2で、前線にスピードがあり、ウラに抜け出す2トップを揃えた。中盤のメンバーは守備の強さや巧さを重視した人選でプレーメーカーは不在。組織全体でボールを奪い、ショートカウンターかロングカウンターで点を獲る作戦だった。
アンカーでしっかりとバイタルエリアを締める守り方ではなく、肉を切らせて骨を断つ戦い方。相手をある程度引き込んでからのカウンター、あるいは相手にカウンターをさせてからさらに奪い返してのカウンターを狙っていたから、奪いどころをまちがえると攻め込まれる危険性は常にあった。東京の中盤が相手に食いついて空いたスペースを使われる場面は何度もあったし、2点のリードを奪った前半45分間も、前半4分の李忠成のところでチャンスになりかけた場面、前半11分の興梠慎三のヘディングシュート、前半17分の武藤雄樹が左に外したシュート、前半20分に右ニアでの武藤のフィニッシュを丸山祐市と高橋秀人が防いだ場面、前半23分の関根貴大のシュートなど、ペナルティボックスに進入されたり、枠内シュートを撃たれたりというピンチがあった。この点についてはハーフタイムに修正を図ったが、それでも最後の30分間、東京は自陣に押し込まれた。
ムリキとネイサン バーンズを先発させてしまったので、スピードのあるアタッカーが残っていなかった。ベンチにいたフォワードは平山相太と前田遼一。ボールを預けて上がる時間をつくらせるなら平山が妥当だったのかもしれないが、選んだのは前田。前線からの守備を期待したのか。しかしその効果は発揮できなかった。
バーンズ自身は体力が余っていたようだが、63分で交替させられた。城福監督の試合後の会見内容から推察すると、たとえ2トップが元気であっても、2トップのサポートをする中盤からうしろの選手に疲れが生じてしまう点が問題だったのかもしれない。ならば2トップをそのまま残して中盤からうしろだけのパーツ交換的な交替にすれば――とも思うが、バーンズを替えてからほかの選手を替えようと思っていた計算が、徳永悠平のアクシデントによりくるってしまった可能性はある。
徳永はアクシデントにより途中で下がらざるをえなかった。ここも内部の事情があるようだ。今シーズンの過密日程と年齢から、何が起きているかを察するべきだろう。これ自体は仕方がないこととして、では代わりのカードを――と言ったときに、適切な選手がいないのだとすれば、これはクラブの責任だろう。若いサイドバックを両サイドに揃えておかなければ、多くの試合を戦い抜くことはできない。
水沼宏太と阿部拓馬がベンチにいなかった理由はわからない。阿部に関して言えば少し前の期間に不調があったようで、直接の影響はなくとも、そこの出遅れに起因して序列が下がっていた可能性はある。
前述のようにプレーメーカー不在のシステムで、ベンチにもプレーメーカー的な選手はいなかったから、ノーマルなサッカーに切り換えることはできなかった。トップ下から中盤の底までを幅広く行き来する中村俊輔や中村憲剛クラスの選手がいないという問題はあるにせよ、パサーとしてある程度プレーメーカー的な働きも期待できるハ デソンがメンバーから外れているのはミステリーだ。佐々木渉の台頭を待つしかないのだろうか。
アンカーを入れたシステムに変更して点を獲らずに守るだけというサッカーにシフトする手もあったが、最後は橋本と小川諒也の若い両サイドバックにせざるをえなかったことを考えると、そうしていたとしても敗れていたのではないか。こう考えると、徳永のアクシデントがとどめを刺したと言えなくもない。

◯なぜ押し込まれたか、なぜボールを保持する時間をつくることができなくなったのか

前半14分に小川→ムリキ→バーンズと左→中→前とつないだ場面を含め、カウンターだけでなく、ある程度パスワークは成立していた。この優勢から一転、最後の30分間、東京は自陣に押し込まれた。
右サイドハーフと右サイドバックを担った橋本は「後半は体力的にも厳しくなっていきました」「後半はなかなか前にプレスをかけられなかった」と言うにとどまった。
いっぽう、左サイドハーフの羽生は「少し後手にまわった時間帯で、思ったよりもみんなの足がうしろに重たくなったのだと思います。前に出て行って相手陣内でボールを廻すことにトライすることが“億劫になった”というか」「(トップの)の収まり具合とか、自分たちの押し上げるハードワークが、時間とともに少しずつ薄れていった」という言葉を残している。
城福監督の「疲弊する選手は、みなさんから見たら見えるかどうかわかりませんけれども、われわれから見たら(中略)疲弊する選手がかなりいて(後略)」という発言と考え合わせると、体力的な疲労が選手のメンタルをも消極的にし、それがまた動きを重くするという悪循環に陥っていたようにも思える。
上海上港とのACLラウンド16第2戦について、心理的な影響も含めて押し込まれてしまったと反省する声は、何人もの選手から聞こえてきた。そしてそのなかに、ボールを保持して落ち着かせたり、自陣よりもボールを遠ざける工夫が必要だという認識もあった。しかし、この浦和との試合にかぎって言えば、その反省は活かされなかったようだ。
城福監督は「後半の頭(の時間帯)も含めてカウンターを仕掛けられるフレッシュな時間帯はいいのですけれども、すべてをカウンターにできないなかで自分たちの時間をどこでつくるか、ちょっと押し込まれた時間帯があって、中盤でもサイドでも時間をつくれなくなったというところが、ラインを上げられなくなったひとつの原因だと考えています。そこは修正していきたい」と言っている。田邉草民を投入した理由も、ある程度ボールを保持できる選手だからということであるようだが、田邉ひとりが入ってもどうにもならない状況だったのか。それとも、チームを救う働きを期待するのは酷なのかもしれないが、田邉の力が足りないということなのか。いずれにしてもチームとしてボールを保持する策を考えていく必要がある。

◯収穫は

対戦成績のよくない苦手のチームは、なんと言っても鹿島アントラーズと浦和レッズだ。13年ぶりに埼玉スタジアム2002で勝てば自信になるところだったが、今回も負けてしまった。
しかし2点を奪ったうえでの逆転負けであることは、強がりではなく事実として認識しておくべきだろう。どのチームも広島浦和対策に頭を悩ませるなか、羽生は、東京が具体的に得点する方法と失点の原因を掴んだことを、クラブ、そしてチームが発展する過程の出来事として肯定的に捉えていた。ただ負けてがっかりしているだけでは進歩はない。敗戦の中身を見つめ、成果を拾い上げていくことも大切な仕事だ。試合で得られた材料を、今後の改善に役立ててほしい。

 

 

 

 

 

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