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【無料記事】スタンドに充ちるネガティヴな反応とミックスゾーンのポジティヴな反省。この乖離をFC東京はどう埋めていくのか(2016/07/18)

カンプ・ノウのように白いハンカチが振られるほどにはわかりやすく可視化されていないものの、それでも試合後のゴール裏のブーイング、Twitterなどネット上の言説からは、現状に「NO」を突きつける声が多いことはあきらかだ。
ファン、サポーターの声は警報であり危険信号。手遅れになる前に批判の声を上げる立場だから、状況がよくなるまでは、危機を唱えつづけるほかはなく、ネガティヴな反応だらけになる。
対して現場は、監督ならば解任、選手ならば放出されるまでは、改善の努力を続行しなければいけない立場だ。だから批判を受け容れ、中位から浮上できない成績を重く受け止めつつも、次の試合に向けてポジティヴに反省することになる。
J1セカンドステージ第4節FC東京対柏レイソル戦後のミックスゾーンには、総じて厳粛な面持ちでありながらも、冷静に問題を認識し、改善を誓う声が相次いだ。セカンドステージ4試合で1勝3敗という成績を考慮すると、ファン、サポーターから見て、この選手たちの落ち着いた、それでいて前向きな姿勢には、違和感をおぼえるところがあるかもしれない。もしそうだとするなら、それはおそらく、ファン、サポーターと選手の、互いの立場の隔たりのあらわれだ。

「もうだめだ」と早めに見切っている、応援する側の心理としては、負けたのだからへらへらするな、厳しさが足りない、神妙な態度をとって白い歯を見せるな――と選手たちを叱り飛ばしたいところだ。しかし空気を重苦しくして圧迫感を増したところで、プレーの精度を落とし、ミスを誘発する悪い結果しか生まないだろう。不用意なミスを許さない一定の緊張感は必要だが、過ぎた重圧はいいプレーを封じ選手を抑圧する。「サッカーだから楽しくプレーすることが勝利につながる」という中島翔哉の口癖は一面で真理を衝いている。
ファンの気持ちはよくわかるし、低迷の責任を強く感じている、そしてもちろん厳しさをもって向上しなければならないが、勝つためには前向きな姿勢とあかるい雰囲気も必要なのだ――という趣旨の言葉を、慎重に紡ぎ出していたのは高橋秀人だった。本人の意図を汲みとり、本人が言葉足らずと感じているだろう部分をこちらで補ったうえで再現すると、次のようになる。

「いま、クラブの掲げたスローガン(『頂戦』)とは相反する結果になっています。その状況に対して自分たちの現実を見つめ、まずは眼の前の試合を勝ちに行って雰囲気をよくしたい、ということが根底にあります。
そのなかで、(得点を)決めるべきときに決めるということに対して、言うべきことは言います。それはどのチームでもプロフェッショナルとして実践している、お互いに求め合うということですが、(厳しさを求めることで)余裕または遊び心と呼べるものが失われる分、たとえばシュートを撃つ場面に必要な駆け引きで、気持ちをリラックスして撃つところに影響が及んでいる気もします。
ただ、厳しいことを言い合うことから眼を背けてはいけない。相反しているようですけれども、それでもチャンスはもっとつくらないといけないし、うしろは失点ゼロに抑えないといけない。
(それを認識したうえで)あまり悲観しないで、前向きに、少し肩の力を抜いてやっていけば、必ず成績と内容はリンクし、それらが一気につながって相乗効果が生まれるはず。雰囲気もあかるく。結果が出ていないから殊勝な態度で取り組まなければということではなく、結果に対して重く受け止めつつも、それを打破するために前向きに、悲観せず、眼の前のことに向き合ってあかるくやっていきたい」

ファンは試合に負けるとすべてを否定したくなる。だが、どの試合にも悪かった点とよかった点が混在しているもの。柏に0-1で敗れた第4節も、前半45分間は悪くなかった。具体的には中盤守備が機能したり、相手の攻撃を早めに潰すことで、ボール支配率を上げ、優勢を保っていた。前半35分には高橋が東京から見て右サイドの奥で、柏のクリスティアーノに強く当たり、反撃を防いだ場面があった。高い守備意識がよかったのではないかと訊ねると、高橋は「それほどのことでもない」と落ち着いた返事を返してきた。
「相手がビルドアップの際、栗澤(僚一)さんと大谷(秀和)さんが低めでボールを廻すから、相手の攻撃陣の枚数はそれほど多くはなく、遅攻のときも脅威に感じてはいなかった。レイソルも福岡よりはポゼッションに長けていて自分たち(東京)の比重が守備に置かれていたから、うしろがタイトに行ってくれるぶん、ボランチのところでボールを潰せていたということはあると思います。だから、そのように映ったのでは?」
このように選手は試合の内容を事細かに把握し、よかった点とよくなかった点をおぼえていて、次回のトレーニング以降どこかの機会で、よくなかった点については改善に着手しようと考えるものだ。徳永悠平が失点の場面について「自分があそこをクリアできていれば。切り換えてやっていくしかない」と答えたのは最たるもの。落ち込んでいる暇はない、というところだろう。

エキサイティングな場面をつくりはしたが、結果として1点も残せなかった2トップは、もちろんその結果に強くこだわっていた。早く挽回したいというオーラを漂わせていたのはネイサン バーンズ。「(ムリキ、中島翔哉との)3人のコンビネーションはよかった。しかし勝つことはできなかった。ホームゲームでもっとゴールを決めて勝てなかったことがいちばん悔しいです」と、ストレートに悔しさを表現した。
平山相太の投入によって左サイドハーフにまわり、これが攻撃力を減衰させたのではないかと見ることもできる布陣変更があった。サイドハーフでも点を獲る姿勢は変わらないのかとバーンズに訊ねると、彼はこう答えた。
「ストライカー(2トップの一角)でプレーするときもサイドハーフでプレーするときも、自分の仕事は攻撃、得点に絡むことだと思っています。ポジションが変わると役割が若干変わってくるのでそれに適応しないといけませんけれども、(得点を)求められるのは当然かと思います」

バーンズよりもやや年長で、チーム全体を見通してプレーメーカー的な働きを買って出ているムリキは、落ち着いた声で、それこそ監督かキャプテンのように総括し、次に向けて気持ちを整える必要を訴えていた。監督を批難するのではなく、自分たちで考えなければいけないと、自主性を重んじたコメントだった。
「きょうの試合は前半にも後半にもチャンスがあった。点を決められなかったことは残念。柏に点を獲られた状況は把握していないのですが、あれくらいしか相手にチャンスはなかったところをやられてしまった。いまは負けたばかりで頭の整理がついていませんが、いまは監督がどうこうというより、自分たちがやらなくちゃいけないと思っていますし、ここから抜け出すには自分たちで抜け出すしか方法がない。どこにミスがあったか、どういった修正をするか、みんなで頭をクリアにして解決していきたいと思っています」

副キャプテンの東慶悟は週明けのミーティングを予告した。
「追いつけずに負けて悔しい。連敗しているので次の川崎までに修正してやっていかないといけない。
(自分が入る前まで)流れはそんなに悪くない状況で、1点をミスのようなかたちで獲られてしまった。そうなると相手は勝とうと引いてブロックをつくり、そこをぼくらが攻めようという画(え)になる。どうこじ開けるのかということをターゲット(課題)にしてまた来週取り組むしかない。
話し合いをして、チームみんなでしっかり話し合って。あした(18日)休みなので、またあさって(19日)全員でミーティングをして。たっぷり時間を使って話すことはすごく大事だと思う。なんとなく一週間を過ごしてまた次の試合を迎えるとなるとそんなにいい結果は出ない。チームとして選手みんなで話し合って、監督コーチ含めて全員でポジティヴにやっていきたい」
高橋は「前向きに」と言った。東の口からも「ポジティヴに」という言葉が出てきた。ややもするとチームが分解しかねない状況で、意識が揃っている面があるとわかるこの一致は、好材料となるだろうか。

「点が獲れなかった、ということだけですね。点を獲らないと意味がない。チャンスがありながら点が獲れない雰囲気は危ないなと自分は感じていたので、なんとしてでも1点を獲りたかったんですけど、相手にワンチャンスを決められてもったいないゲームでした。自分も点を獲れるチャンスがあったところを決めきれなかったことはほんとうに反省しています。獲らないといけないゲームでした。自分は常にゴールを狙っているので、上をめざす意味で毎試合獲っていかないと。練習するしかないですね。
両サイドバックを高く上げてというのは指示としてありました。何度かクロスを上げる場面もありましたけど、点に絡まないといけない」
こう試合を振り返った橋本を囲む輪が、一度解ける。そこでもう一度橋本を掴まえ、話を訊いた。

――いま前の試合の課題を修正して次の試合に望むとまた次の課題が出てくるという、もぐら叩きみたいなところがあると思うんですよね。この落ち着かない感じを潰していくためには、どうしたらいいと思いますか?
橋本拳人 それは、わからないです。
――つづけていく?
橋本拳人 監督の言うことをみんなで信じてやっていきたいと思います。
――いいところはいいところで把握している?
橋本拳人 そうですね。試合ごとに出た課題を意識してトレーニングをとは監督も言っていますし、そこは選手も意識してできていると思うので。ただ、なかなかうまくいかないというのは、まだまだひとつになりきれていないのかな、ということもありますし、みんなが同じ方向を向いてプレーしていくことがいまは大事かなと思います。

シーズンが半分過ぎたこの時点でチームがまとまりきっていないのならばそれは不安になるが、そうだとしてもよりまとまっていこうと考えているうちは、完全にばらばらになることはないだろう。ムリキが、東が、みんなで解決したい、みんなで話をしたいと、チームであることを意識しているなら、その努力をつづけているうちはチームはチームでなくならないはずだ。
スタンドのファン、サポーターが否定的な声を上げずに済むよう、状況を改善できるのは、選手の力をおいてほかにない。多摩川クラシコまでの一週間、このかぎられた時間を、有効に使ってほしい。

 

 

 

 

 

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