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【無料記事/J1_2nd第7節第2報】ポポ時代から苦節4年。野澤英之、開花まであと一歩(2016/08/07)

FC東京U-18からの昇格で正式加入したその2013年はカップ戦のみの出場でリーグ戦出場なし。2014年からの二年間はJリーグ・アンダー22選抜でJ3に参戦しながら、J1では7試合374分間に出場しただけだった。メンバー入りの機会は稀。新卒で加入した当初の柔和な笑顔は、現実に直面するとともに険しさを増していった。
今シーズンも厳しい表情は変わらない。ただそこに、明確な変化があった。厳しさを失わないまま、笑顔が戻ってきたのだ。

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野澤英之は今シーズン、トップチームではなく、FC東京U-23の一員として戦いを始めた。開幕戦でSC相模原に惨敗。いきなりつまずいた。ボランチで先発したが、中盤で相手の攻撃を食い止められず、圧されっぱなしになった。フィジカルも試合勘も十分ではなかった。昨年までは“若手ぐらし”の身分、当時の監督の方針もあって練習試合が少なくなると、成長は停滞した。この遅れを挽回するには、開幕戦で苦渋を舐めたJ3を舞台に戦いつづけるほかはなかった。

安間貴義前U-23監督率いるJ3のチームは、勝とうが負けようが激しい上下動を伴うサッカーを志向した。やりつづけていくうちに、メンタルもフィジカルも鍛えられた。チーム事情で左サイドバックを任されることになっても、自分なりのディフェンスと攻め上がりで貢献し、守備力と知性を磨いた。安間前U-23監督が「最初の10試合は合宿」と公言したその10節を過ぎるとチームは勝ち方をおぼえ、野澤もボランチで出場しながらキャプテンマークを巻く機会が増えた。

J3の前節、中村忠新U-23監督の初戦、野澤はチーム事情で4バックの守備的なアンカーを務めた。パスは“さばきのパス”が多くなり、攻撃で能力をアピールする機会は少なかったが、チーム全体の司令塔として高校生や大学生の手綱を締める役割をこなした。若いチームでキャプテンマークを巻く野澤は、ピッチ上の監督になっていた。
ジュビロ磐田撃破をなしとげた試合後、野澤が言った。
「J3で、ユースだったり年下の選手がいるなかで、自分が引っ張らなきゃという立場でずっとやってきたので、自分のところでまとめる、ゲームを締める力も、J3の試合でちょっとずつはついてきたのかなと思います」

野澤は冷静だった。戦況を見つめ、自らがなすべきことを整理してピッチに入った。
「ちょっと、後半の入りから相手にペースを握られているような、バタついているような印象があったので、自分のところでかんたんにボールを散らしながら、自分たちのリズムでできるようにしようと思って試合に入りました。落ち着いていた? そうですね、前半、ベンチで試合を観ていて、どこにスペースがあるとか、ここにいたらプレッシャーを受けないだろうなということを考えていたので、すんなりと入れました」

前節はベンチに入りながら出場機会がなかったユ インスも今シーズンJ1で初出場。インスにとってはこれがJ1デビュー戦でもあった。その試合でいきなりのゴール。J3で半年間、同じ釜の飯を食ってきた仲間のゴールに、思わず感極まった。
「(インスと)ずっといっしょにやってきて、練習でもインスがとてもよかったのもずっと見てきて知っているので、インスが決めたときはほんとうにうれしかったですし、自分が決めたときくらいの喜びが――まあ、まだ(J1では自分で)決めたことはないんですけど(笑)、そのくらいうれしかったです」

自身のプレーについては、途中出場ということもあり、割り引いた評価をしている。
「まだ後半の途中から入って相手のプレッシャーが落ちた時間帯での出場だったので、なんとも言えないですけど、これがもし、先発で出てJ1のプレッシャーを受けたなかでも、きょうみたいな落ち着いたプレーができれば、これからもっとチャンスも増えると思います。きょうのこのプレーに満足せず、来週またしっかりやっていきたいと思います」
スターターとしての難しさを知らないわけではない。これでいいとはまったく考えていない。それだけの分別はある。

木曜日の練習でメンバーに入り、今節も先発出場する可能性はあった。次節は先発も考えられるが、その心構えは既にできている。
「ゲームの入りは、守備で軽いプレーは絶対にいけないと思いますし、もしスタメンで出られたら守備からしっかり入って、試合がちょっと落ち着いてきたところで、自分の攻撃なり、パスのよさを出せればいいと思います」

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今シーズンはJ1に初出場。「やっと出られたなという感じで、ここまで長かったですけど、まずは勝ててよかったです」というひとことに、安堵がわずかににじんでいた。もちろん謙遜も。ただ、その謙遜の背景に、ここまでベストを尽くしてきたという自負もあるだろう。野澤はJ3の日々に誇りを抱いているようだった。
「J3も、正直やっていて全然レベルの低さは感じませんし、あまり違和感なくきょうは入れたので。J3でプレーできていたぶん、試合勘も問題なかったですし。そういう部分では、毎週毎週やってこれたのはよかったな、きょうに活かせたな、と思います」
滞っていた成長を加速するべく、FC東京U-23でねじを巻いてきた野澤英之。その努力が、篠田善之監督率いる、変わっていく新しいチームで花開こうとしている。新しい育成方針のもとに失われた時間を取り戻しつつある野澤。彼から放たれる輝きが、味スタのピッチを照らしてやまない。

 

 

 

 

 

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