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【無料記事/ルヴァンカップ準決勝第2戦第4報】オピニオン◆2003年を境に逆転したFC東京と浦和レッズの関係、どこで差がついたのか。明確なヴィジョンを示すべき(2016/10/10)

キャプテンの森重真人が日本代表招集、副キャプテンの米本拓司が負傷で離脱し、留守を預かる恰好の副キャプテン、東慶悟。彼が浦和レッズに敗れたルヴァンカップ準決勝第2戦のあと、埼玉スタジアム2○○2のミックスゾーンで残した声が強く印象に残る。
「FC東京が何を、どこをめざしてやっていくのかを明確にしていく必要があると思う。浦和は監督を(ミハイロ ペトロヴィッチ監督に)交替してから今シーズンで5年め、そういう強みや力はあると思いますし、そこは東京としても大事な部分になってくるのではないかなとぼくは思います」

浦和の流動的な攻撃には予備動作や判断、読みなどの側面が伴う。当然、個人の向上にもコンビネーションの熟成にも時間がかかる。しかし浦和はミハイロ ペトロヴィッチ監督の許、時間をかけてそれをなしえてきた。今シーズン前半戦に低迷し、残り半分でチームを再構築しなければならなくなった関係で複雑な作業には着手できず、がむしゃらに走ることをベースに個人のポテンシャルを引き出していこうとする段階にある東京とは、そもそも発展の度合いも地力もちがう。5年分の厚みに対して、篠田善之監督が就任してから2カ月半の東京が勝とうというのはむしのいい話だったのかもしれない。
仮にハンス オフト監督指揮下で上昇のきっかけを掴んだ2003年からが、現在も有効な浦和の積み上げだとするなら、その差は5年どころではなくなる。

浦和のクラブ力はピッチ内の実力や観客動員だけにとどまらない。取材に必ず対応し、質量ともに十分なコメントを提供しようとする選手の姿勢にもそれは感じる。なぜ選手がそのように働けるのか。メディアの向こうにいるファン、サポーターに対するプロ意識ももちろんあるのだろうが、クラブの教育の成果でもあるだろうし、高年俸や充実した練習環境などの待遇が自覚を促している側面もあるはず。他クラブからの移籍で浦和に加入した選手は浦和色に染まり、加入以前よりも高いパフォーマンスを発揮している。それは武藤雄樹や高木俊幸を見ればあきらかだ。選手の力に頼るのではなく、クラブが選手の力を引き上げる域に達しないと、上をめざすことは難しい。

クラブとして、チームとして、どのような状態に目標を設定してそこに近づけていくのか。
東の言葉が、FC東京に必要なものを的確に示している。

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かつて浦和レッズはFC東京のお得意様だった。
2001年はJ1で東京が2勝。このとき浦和のホームは現在の浦和駒場スタジアムで、観客動員は19,967人。東京のホームは味の素スタジアムと命名前の東京スタジアムで、観客動員は27,103人。ちなみにサテライトリーグは1勝1敗だった。
2002年も東京がJ1で2勝を挙げているが、様相が変わるのは2003年から。7月12日に埼玉で開催されたリーグ戦では東京が0-1で浦和を屠っているが、8月のJリーグヤマザキナビスコカップ準々決勝では浦和の前に屈した。アウエーの第1戦を2-2と引き分けて帰ってきた第2戦、ホーム味スタで0-2と敗れたのだ。10月18日のJ1では、浦和を味スタに迎えて1-1の引き分け。このあと浦和は11月3日に開催されたナビスコ決勝で鹿島アントラーズを0-4(鹿島がホーム側扱い)で破り、初優勝を遂げている。

東京がナビスコ初戴冠を経験した2004年はまだよかった。そのナビスコ決勝ではPK戦の末に浦和を下し、J1では1勝1敗。
ただ、試合内容に問題があった。12月19日に埼玉で開催された半アウエー状態の天皇杯準々決勝で浦和に2-1で敗れた試合では、結果もさることながら、なすすべなく永井雄一郎に突破されそこを起点に決勝点を奪われた場面に象徴されるように、既に実力差を感じる内容になっていたことが衝撃的だった。ナビスコ決勝でもエメルソンと田中達也の猛威の前に守りきれたことが信じられないほどひたすら攻められていた。
観客動員争いでは、味スタで41,469人を集めているものの、埼玉には52,646人が集まり、浦和に軍配が上がっていた。もうあらゆる面で浦和が優位にあることはあきらかだった。

そして2005年、東京はJ1で2戦2敗、天皇杯でも浦和に敗れ、とうとう全敗。以後、浦和の圧倒的優位がつづいている。天皇杯での対戦は2006年以降は一度きり。東京が優勝した2011年度のことで、このときは東京のプレッシングが機能して熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で浦和に勝っているが、Jリーグの舞台では、東京が常に浦和の後塵を拝する状態にある。
2004年まで、大熊清監督と原博実監督の許、東京は右肩上がりの成長期にあった。しかしカップウイナーとなった余勢を駆ってリーグ戦でも優勝をと意気込んだ2005年に低迷して以後、一貫したヴィジョンが見えにくくなっていて、結果的に2015年の年間4位、2009年の年間5位、2008年の年間6位もつかの間の好調であるように映る。三人の日本人監督が分け合ったナビスコカップと天皇杯の優勝が勲章だが、それがチーム力の証だと自信を持って言いづらい。

東京と浦和の力関係が逆転し始めた2003年、浦和はハンス オフト監督が指揮を執って二年めで、エメルソンに加えて田中達也、永井雄一郎、平川忠亮、山田暢久、坪井慶介、鈴木啓太、山瀬功治、長谷部誠などの才能を揃え、ファーストステージでもセカンドステージでも6位となり、基盤を築いたところだった。
2004年から06年まではギド ブッフバルト監督の許で二回の2位を経験したあとにリーグ初優勝。05年度と06年度の天皇杯優勝はまぐれではなく当然の結果だろう。その後ホルガー オジェック、フォルカー フィンケ、ゼリコ ペトロビッチ監督時代に低迷を経験するが、一度頂点を経験して名実ともにビッグクラブとなったあとのことであり、監督選考をめぐる喧々囂々を経てミハイロ ペトロヴィッチ監督に指揮官を固定してからは年間3位、6位、2位、2位の各順位をマーク、5年めの今シーズンは31試合終了時点で年間1位に立っている。

2006年から2009年までの絶頂期に比べれば観客動員が低下してきたとはいえ、浦和との営業面の開きはまだある。そしてその差を縮めることができたとしても、ピッチ内の力の差は開いていく一方だ。成長期の初心や右肩上がりの勢いにより掛かるだけでは、それ以上先には進めない。地道にクラブを保持していく努力は、それはそれでもちろん重要だが、上にポイントを置き、その目標値に向けて懸垂をする試みもしないといけない。頂戦という掛け声と同時に中身を明確化する必要がある。
東の提言に応え、真摯に強くなろうとするFC東京の姿を見たい。篠田善之監督はルヴァンカップ準決勝第2戦試合後の共同記者会見で「どうやって切り換えるかは、またみんなと話をしながら取り組みたいと思っています」と言ったが、選手とコーチングスタッフだけでなく、いま一度、クラブに携わるすべてのメンバーに立ち上がってもらいたいと切に願う。

 

 

 

 

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