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【無料記事/天皇杯ラウンド16第4報】志の高いHonda FC、彼らに善戦の二文字は似合わない。香川大樹「公式戦をやるという意味では対等な立場でやっているつもり。負けていい試合はない」(2016/11/10)

誇張でもなんでもなく、Honda FCは大会16強にふさわしい実力を持つチームだった。J3が新設されたおかげでJFLがピラミッド上では4部ということになってはいるが、全国3部をJ3とJFLに割ってからまだ3シーズンが経過したところであり両者に大きな力の開きはなく、JFLもまた3部に準じた力を持つと考えるべきだろう。
そしてJクラブとなる意思のない企業チームのHondaとソニー仙台FCにとってはJFLこそが最上のカテゴリー、かつ参加できる唯一の全国リーグであり、そこでセカンドステージの優勝を争う彼らのうちの一方がJ2に匹敵する力を持つことは、戦前から明らかだった。

それにしても、J1のFC東京を圧倒し、スルーパスへの飛び出しという美しいゴールを決めてリードした前半45分間の内容は、サッカーファンを驚嘆させるに十分ではなかったか。JFLセカンドステージの優勝がかかった最終2節のあいだにこの天皇杯が挟まり、リーグ戦前節のvs.ラインメール青森戦からホームの静岡県浜松市に帰ることなく味の素スタジアムで戦った日程を考えれば、終盤に逆転されての敗戦もやむなしという印象を持った観戦者も多かったはずだ。
しかし試合後の共同記者会見にあらわれたHondaの井端博康監督は、優勝をすんでのところで逃したチャンピオンチームの指揮官であるかのように沈痛な面持ちだった。
席上、出てきた言葉は「完敗です」だった。

「後半の立ち上がりのところの失点はチームの勢いを失わせるものであったと感じます。結果的には2-1の1点差ですけれども、私個人の評価としては、完敗かな、と。何もさせてもらえなかった。(1-1から勝ち越しの決勝点を奪うため)行かなければいけないという気持ちからオープンな展開になった残り10分では前に人数を多くかける場面が数多くできたのですけれども、やはりチームとして重心がうしろに下がってしまったかなという印象です。いい経験をさせていただいたので、また日曜日にリーグ戦の最終戦が勝てば優勝という状況でありますので、今後につなげていきたいなと思います。以上です」

その総括に、高い位置から連動して相手ボールを追いつづける粘り強い守備、一度ボールを奪ったら容易には奪わせまいとする意識と身のこなし、ワンタッチで小気味よく正確につないでいくすばやいパスワークといった、組織の完成度に於いて東京に雲泥の差を見せつけたと言っていい、すばらしいプレーの数々についての言及はなかった。
選手たちにはこの連戦に臨むにあたって「からだの疲れ、けがを言い訳にせず、一つひとつやっていこう」と言い含めてあったという。

「たぶん選手も『よくやったな』という気持ちより、悔しいな、まだまだできたのに、という気持ちだと思います。守備では1対1の局面になってもできるだけのかたちをインプットして頭のなかに入っていましたので、数的同数になっても止められるという自信はあったと思います。ただ、後半、相手のサイドバックが変わって局面が変わってしまったというところで、自分がもう少し早く手を打てばよかったと思いますけど、自分たちは攻撃に力を入れて日々トレーニングをしているわけなんですね、で、J1相手でもできる、おれたちはできるという気持ちが強いだけに、きょうのゲームはちょっと悔しさが残る、というところです」

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組織がよかっただけでなく、個人でも輝いていた。Jリーグ経験のある古橋達弥がいろいろなところに顔を出してはゲームをつくり、同じく“元J”の久野純弥がフィニッシュに備えて常に得点をうかがい、大卒加入の選手たちのなかでも、キッカーの栗本広輝は守備も含めて大型ボランチとしての存在感を示し、香川大樹が個の技術でチャンスをつくりつづけるなど、非常に高いパフォーマンスを発揮していた。

香川は近畿大学付属東広島高校から高知大学を経てHonda FCに加入した攻撃的な中盤の選手で、Jリーグでの経験はない。天皇杯に出場したのは、第90回天皇杯全日本サッカー選手権大会1回戦で、高知大学の一員としてカマタマーレ讃岐と戦って以来6年ぶり。Hondaも2010年以来6年ぶりの出場だった。
東京をたじろがせるゴールは、彼のパスが生んだ。
「ショートパスが自分たちが大事にしているプレースタイルでもあるので、中からでも外からでも。たぶんウチには個の能力が高い選手はいないので、パスをつないで連携のなかからどうにか点を獲っていくスタイルだと思う。リーグ戦でも先制点を獲ると勝てる試合が多い。気持ちの部分がでかいので、1点獲っていい流れになれば、みんなノってくる。きょうもイケるのかなと思ってしまったところが、甘かったのかなと思います」
甘かったのかもしれない。しかし重要なのは、勝つという確信を持って臨んでいたことではないか。

「もっとできた」という井端監督の言葉は、Hondaが抱く志の高さを伝えてくれる。JFLにしてはよくやった、そんな評価は彼らに対して失礼だ。Jが相手でも勝ってしかるべき、そういう精神をHondaの人々は持っている。香川は言う。
「そうですね。公式戦をやるという意味では対等な立場でやっているつもり。負けていい試合はないと思う。ロッカールームに帰ったあともあかるい話はなかった。負けたあとだから当たり前なのかもしれませんけれども、悔やんでいる選手ばかりだった。満足している選手はいないと思います」

少ないチャンスに披露した速いパスワークにも哲学がある。それが功を奏して得点につながりもし、自分たちの力にあらためて自信を持つこともできたようだが、最終的には敗れたことで、香川の言葉を聞くかぎり、真摯にプロとの差を感じてもいる。収穫と課題。東京にとっても勉強になる試合だったが、HondaがJFL王者をめざすうえでも得たものはありそうだ。
「ボールを持っていたら守備をしなくていいところもあるので、大事につないでいます。でも、それだけじゃ足りない部分も絶対に出てくる。五分のボールでも向こうにとって危ない場所に入れていくことも大事だと思いますけど、相手の能力が高く獲られるとたいへんなので、その辺は慎重になりすぎちゃったかもしれないですね。持たされていたのかもしれない。中に入っていけないところがあったので。そこは相手がひとつ上だったという感じがします」

安間貴義コーチも言っていたように、引いて守ったところで、カテゴリーが下のチームがJに勝つことは難しい。Hondaは守備では厳しいプレスで東京を自由にさせず、攻撃では単純なカウンターではなくすばやいパスのつなぎで得点を奪った。そのHondaに「Jを相手に善戦した」という評価はふさわしくない。
Jをめざさない企業チームが、自身の哲学に基づいてよりよいサッカーを追求し、規定上参加しうるなかで最上のカテゴリーの優勝を狙い、プロアマオープンの天皇杯でひとつでも先へと進もうとする。その真摯な姿勢に敬意を表したい。

 

 

 

 

 

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