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【無料記事/新人戦決勝第3報】大本竜司が見せた改善の跡(2017/02/16)

昨シーズンのFC東京U-18では、波多野豪と高瀬和楠が競い、緊張感のあるポジション争いを繰り広げていた。高瀬は波多野不在のJユースカップで見事な働きを見せ、二冠達成に多大な貢献をした。その伝でいけば、2017シーズンは高瀬を脅かすゴールキーパーが必要になってくる。だが、2月5日の平成28年度 第18回 東京都クラブユースサッカーU-17選手権大会決勝リーグ第3節(最終節)で、先発しようとする大本竜司の試合前の表情を見て、正直なところ心配になった。佐藤一樹監督があれこれと話しかけてくれてはいたが、ちょっと硬い。ろくすっぽ経験がないのだから無理もないが、フィールドにもフレッシュなメンバーが多く、チーム自体スロースターターの癖があるのに、大丈夫だろうか、と。
不安は的中。開始直後の失点を引きずったか、前半45分間は低調だった。0-2から最後の最後で逆転勝利を果たしたものの、安定感を欠き、自分たちのリズムでプレーできず、ストレスが募るなか、組織的な相手の狙いにはまってしまう悪循環の時間帯は、なんとしても解消しなければならなかった。

しかし6日後、決勝戦でつづけての先発となった大本を含む選手たちは、一転して引き締まった凛々しい表情を見せた。ことに大本は序盤、東京ヴェルディユース18番大森渚生との1対1を制し、あわや失点のピンチを回避、チームに勢いをもたらした。その後も技巧的な相手の攻撃にも屈せず、ハードな戦いを貫き通し、4-1の勝利で優勝を達成。会場の味の素フィールド西が丘に歓喜の輪が広がった。
この喜ばしい変化の背景には何があったのだろうか。

試合後、取材は初めてなのでお手柔らかに――とクラブスタッフに促されて登場した大本に、こちらも恐縮しながらおずおずと試合の感想を訊ねると、しっかりした声で答えが帰ってきた。
「先週の試合(新人戦決勝リーグ第3節vs.東京武蔵野シティフットボールクラブU-18/3-2◯)で少し入りが悪いところがあったので、自分のなかでそこを改善しようという気持ちがありました。練習で意識している部分を試合で出せるように、準備からしっかりと入ったので、今回の試合では集中して入ることができたと思います」
試合に備えた一週間弱の練習には「丁寧にプレーすること、ビルドアップの安全なプレーを心がけました。先週の試合ではやや大きなミスがあったので、そのミスがないよう安全にプレーしようと」取り組んだという。

佐藤監督はこの間の大本について「しっかりつないでいくところは、自分のなかで排除していたのかもしれない(笑)。中途半端に真ん中につけてかっさらわれるようなプレーは自ら放棄していた。でも、それも大事な力だと思います」と言っていた。冒険の割合が多いパスは排除してセーフティなビルドアップを心がけた、という意味だ。プレーの優先順位を整理したことで、よい結果につながった。
「そうです。やっぱり、失点につながるプレーよりも、前で安全なプレーのほうがいいと思ったので、そっちの選択をして」
そのように割り切ることで、ゴールキーパーとしての仕事に集中できたのだろうか。
「それはありますね。そこで自信を持てた部分があり、1対1で止めたりといったプレーが可能になったと思います。あれで弾みがつきました。(見せ場が)キター! と思いました」
あの場面を佐藤監督は「あそこで獲られていたらゲームの行方はどうなるかわからなかった。久々のこういうハリのあるゲームでしっかりやってくれた」と評価した。

後半の失点については、よくなかった前半の“入り”からの流れによるものだと冷静に分析。防げない失点ではなかっただけに、試合運びも含めて反省するところになったようだ。
しかしその流れを1-1で食い止め、勝ち越しにつなげられたのも、序盤のビッグセーブと、その後の粘り強い戦いがあってこそ。
若い選手は短い期間、あるいは少しのきっかけで成長することがある。
2月15日に開幕したT1リーグ(高円宮杯U-18サッカーリーグ2017東京1部) は実践学園高等学校を相手に引き分けスタートとなったが、こうした公式戦の経験を重ね、チームにいい競争と厚みをもたらすよう、今後も活躍に期待したい。

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「近未来の東京を舞台にしたサッカー小説・・・ですが、かなり意欲的なSF作品としても鑑賞に耐える作品です」
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「クラブ経営から監督目線の戦術論、ピッチレベルで起こる試合の描写までフットボールの醍醐味を余すことなく盛り込んだ近未来フットボール・フィクション。サイドストーリーとしての群青叶の恋の展開もお楽しみ」
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