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【無料記事】FC東京ゴール裏へ挨拶に赴き、筋を通した権田修一の勇気(2017/04/01)

FC東京とサガン鳥栖の戦いは3-3の引き分けに終わった。2失点に関与した権田は鳥栖のゴール裏に権田コールで迎えられ、鳥栖のマッシモ フィッカデンティ監督は「むしろ試合前よりも信頼が増したくらいだ。そう本人にも話した」と権田を庇った。
あたたかい反応だった。
移籍の経緯で東京ファン、サポーターの反感を買った権田にとり、かつてのホームである味の素スタジアムは完全敵地になっていた。ボールを持つ度にブーイングが起こる。セカンドハーフの45分間は敵意を背にして戦っていた。やりやすいはずがない。その環境で戦い抜いた権田を責めるのは酷だからか。

試合後、権田は東京のゴール裏へと挨拶に赴いた。DAZN(ダ・ゾーン)の中継画面は権田が涙を流す場面を捉え、それが番組のエンディングとなっていた。
吉本一謙は言う。
「よかったんじゃないですか。こういう、きょうのような試合で(FC東京ファン、サポーターの気持ちを)感じ取ったなかで行くのも勇気があることだと思う。しっかり筋を通してと言いますか、自ら挨拶に行ったのは個人的には勇気があることだと思うし、よかったと思います。(権田コールは)ありがたいです」

いちばん遅くミックスゾーンにあらわれた権田は、全報道陣の前で率直な心境を語った。以下にその内容を記す。

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まず……勝てる試合だったので、そこが引き分けになった責任をそうとう感じています。ぼくもこういうの(アウエーの洗礼)には動じないつもりだったんですけど、まだまだだなとは思いましたね。やっぱり、気合いは入っていました。キーパーは常に冷静でなければいけないけれど、そうじゃない自分がいました。この試合までの一週間、この試合には負けたくないという思いが、ちょっと……。グラウンドから家まで30分くらいかかるんですけど、きょうは熱くなりすぎたなとか、毎日反省しながら帰っていました。ふつうではいられなかったですね。
鳥栖から来てくれたサポーターの方、鳥栖にかかわる方たちに謝らないといけない。結果はどちらも味方との連携とのところで、ぼくが獲れたりぼくが処理できたりしたらそれが理想ですけれども、この試合の雰囲気や、1-1になった状況で……。あとで映像で見たら(2点めは)トヨくん(豊田陽平)はフリーだったので出なくてもよかったし。3点めにしてもまだミン(キム ミンヒョク)とはまだ話せていないですけど、相手にプレゼントした恰好になったので、純粋に、鳥栖が勝つためにということを考えたときに、よろしくはなかった。
でも、人生でいちばんつらいというか、不思議な。ここ(味スタ)で最後に試合をしてだめになっちゃって(オーバートレーニング症候群)、ここで試合をするのもそれ以来だったし。変な感じでしたね。うれしい(気持ちが)半分、でもFC東京のユニフォームじゃないし、いまはサガン鳥栖のために全力でやらなければならないので、複雑な立場でしたけれども、こうなった以上は、東京のためのいちばんの恩返しは、きょうはぼくは勝つことだと思って、FC東京ではなくサガン鳥栖でね、勝つために、そこで元気な姿を見せるという、でもそれもできなかった。またしっかりやり直さないといけないと思います。

試合が終わって整列しているくらいのときから、自分のプレーもそうですけど、ロッカーに帰って。おととしの夏のときの(味スタ最後の試合の)監督もマッシモ(フィッカデンティ)なので、マッシモの顔を見たときに、糸が切れたじゃないですけどもう力が抜けちゃって。でもやっぱり、ブーイングされようが何があろうが行くとは最初から決めて、監督にも言っていたし、何があってもどういう結果でもぼくは(東京の)サポーターのところには絶対に挨拶に行きます、自分を育ててくれたクラブであるということには何も変わりはないのでと、前もってちゃんと伝えておいて。まだこの試合から遠い時期、鳥栖に入ってすぐくらいのときに言っておきました。
けじめじゃないですけど、このスタジアムで育ててもらったし、このスタジアムでうれしい思いも悔しい思いもしました。支えてくれていたのは、ぼくがどんなにミスをした次の試合でも名前を呼んでくれたサポーターの方だったので。
人間なので、こういう移籍の仕方をすると、それはいろんな思いのひとがいるのは当然だから、ブーイングしたいひともいるし、「そりゃあねえだろ」と思っているひともいる。でも、ぼくが決めた人生をぼくは進むしかないので。自分のなかで後悔はないし、いまからは、ここからは前に進むしかないと決めて鳥栖に入りました。とはいえ、育ててもらったひとにはお礼を言わないといけないし、この移籍の仕方を、もしぼくがFC東京のサポーター、サポートをする立場だったら、それは「ふざけるな」と思うので、謝らないといけないと思っていたし。
どういう立場になっても応援してくれるひともいます。家族はぼくがどの選択をしても応援してくれたし、そういうひとたちのため、サガン鳥栖というチームや九州のために、いままでFC東京に注いできた力を、注いでいけたらいいと思います。

いまは頭の整理ができていないのが正直なところです。監督は「こんなのイタリアじゃふつうだから。切り換えろ」とか言うんですけど、ぼくは真面目すぎるからオーバートレーニングにもなるし、ひとりで勝手に考えるから背負い込みすぎるしと、そこはああいうことがあったので自分でもわかる。ただ、きょうぐらいは、きょうはちょっと、ふわっとじゃないですけど、頭のなかも整理されていないですし。これから帰って家族に会って子どもの顔を見て、子どもがぼくの顔を見て。あした一日休みなので、髪の毛を切って、あさっての練習からまたしっかりサガン鳥栖のためにできたらいいと思います。

カズ(吉本一謙)は「出てくるのかよ」と思いました。カズはほんとうに支えてくれていたし、この一年半しんどかったときもいちばん連絡をとっていたのはあいつだし。みんな、それぞれ連絡をくれました。キャプテンの森重(真人)はあまり連絡はくれないですけど、きょうあそこで整列して、握手するときに「こいつがいままで自分がFC東京にいたときのキャプテンでよかったな」とあらためて思えるような感じだったし。それはもう、いっしょにずっとやっていたので、眼を見ればわかる。カズは、ぼくはあいつのつらいときも知っているし、あいつはぼくのつらいときも知っている。ウチ(鳥栖)が勝っている前提で考えていたので、出てこないと思っていた。自分で引き金引いちゃいました(失点して東京リードの展開にした)けど「ああ、出てきちゃったな」と思って。あいつも「いや、おれが出てから点を獲られたから全然ハッピーじゃねえよいま」って言っていましたけど、正直あまり対峙したくはなかった。でも、わからないです、あさってになったら、同じサッカー界にいる仲間として、そうやっていっしょにやった仲間と対峙できるのはやっぱり喜びだと考えないといけないと思うので、そこはしっかり切り換えますけど。きょうの時点では、正直けっこう「うわぁ」とは思いましたね。しかも4番だし。
やっぱりカズは昔から4番のイメージがあって。テレビではちょっと見ていましたけど、カズの4番を見たときはうれしかった。最初に知ったのは、小平で練習させてもらったときに、トレーニングルームのカズの靴箱が4番になっていて、すっげえうれしかったし。それは前につけていた(高橋)秀人がどうこうではなく、純粋にカズが4番をつけているというのがうれしくてしょうがなかったし、それをピッチで見ることができてよかった。次のときはもうちょっと成長したところを見せられるようにがんばりますので、よろしくお願いします。

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少し前に取材の現場で話を聞いたかぎりでは、権田は自分がFC東京のファン、サポーターにどう思われているかを正確に知っていて、そうした憤りはこのいきさつからすればもっともだと批判を受け止めていた。だから4月1日に味の素スタジアムで東京と対戦したときに自ら挨拶に行くのだと、張り切ってもいた。実際に当日を迎え、強烈なブーイングを浴び、激しい試合をくぐり抜けたあとで度胸も必要だったとは思うが、権田は男らしく自分の姿を古巣のファン、サポーターの前に晒した。それだけでなく、公にコメントとしてこれまでの、そして現在の思いを表明してくれもした。おかげでこうして記事として伝えることができる。その勇気に敬意を表したい。

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「近未来の東京を舞台にしたサッカー小説・・・ですが、かなり意欲的なSF作品としても鑑賞に耐える作品です」
http://goo.gl/XlssTg
「クラブ経営から監督目線の戦術論、ピッチレベルで起こる試合の描写までフットボールの醍醐味を余すことなく盛り込んだ近未来フットボール・フィクション。サイドストーリーとしての群青叶の恋の展開もお楽しみ」
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