【無料記事/天皇杯2回戦第1報】ブーイングは逆効果! 長野GK武田大の闘志を燃やしただけだった(2017/06/21)
PK戦で阿部拓馬のPKを止め、AC長野パルセイロに勝利を呼び込んだゴールキーパーの武田大は、今シーズンのリーグ戦では元FC東京の阿部伸行の後塵を拝し、ここまで出場機会はなかった。その武田をこの大一番で起用したのは「PKストップの能力が非常に高いから」と、浅野哲也監督は言う。
「PKのトスでウチが取ったんですけれども、武田が『最初にゴールマウスに入りたい』と意気込みを見せてくれたので、最初にあいつに(守備のターンから)入らせて後攻を取った。そういったところも少し相手の心理的なものに影響したかもしれない」
当の武田は鳩が豆鉄砲を喰ったように驚いた顔をしつつ「ほんとですか!? そういう印象を持っていただいていたのであればさいわいです」と言い、笑みを浮かべた。
「得意か得意じゃないかと言われれば、何本かは止められるかな、という感じです」
東京の選手がどういうPKを蹴るかという分析データはひとつもなかった。
「あの場に立って、きょうの120分間のプレーの質、プレースタイルで判断するしかなかった」
PK戦に入るときの意気込みは、浅野監督が試合後の共同記者会見で述べたとおり。武田には、先にゴールマウスを守り、PKを止めようという強い気持ちがあった。
「ぼくがいままでサッカーをしてきた経験のなかでは、自分が先に止めたほうが相手にプレッシャーがかかるとわかっているので『先にスタートさせてくれ』と言いました。選べるときは、いつもそうしています」
「アウエー側のゴール裏の前、ブーイングで集中が乱れなかったか?」と訊ねると、この答えが秀逸だった。
「いや、まったくでしたね。むしろもう、ね、止めてやる、っていう気持ちにしかならなかた。まあでもやっぱり、J1のサポーターを背にすると、すごい雰囲気だなとは感じましたね(苦笑)」
自陣ゴールでのPK戦をいいことに、東京ゴール裏はこういうときの常套手段であるブーイングを浴びせていたが、まったく効果がないどころか、武田のハートを熱くさせ、集中力を研ぎ澄ませるアシストにしかならなかったようだ。
相対的に守備的な戦い方となり、重心がややうしろになることは、選手全員が理解していた。この状態で、武田は冷静に被フィニッシュの場面を計算していた。
「きょうみたいな守り方になるのは仕方がない。最後の1本のパスとかシュートは自分のところに来る。それに対して準備する。で、うまく連携をとってそのコースを限定していくつかに絞ることがうまくできていたのかなと思います」
「被シュート、被クロスが多かったけど、ちゃんと計算して止められていたのか?」と訊くと、武田は次のように答えた。
「ぼくはそういうふうに分析したいですね。どうしても、重たくなってラインが低くなると、クロスボールがすごくゴールに近いところに入ってきてしまうので、ディフェンスにずっと『できればペナルティエリアの前! 入らないでくれ』というコーチングはしていて。少しアーリー気味のクロスに対して準備していたので、ヘディングをされてもキャッチができていたと思う。あれがもう少し深い位置だったら、危なかったと思います」
J1とJ3。カテゴリーはふたつちがう。しかしカテゴリーがふたつ上のチームの攻撃やブーイングを冷静に処理した武田の聡明さは東京をあきらかに凌駕し、そして東京の選手とサポーターに冷水を浴びせるに十分だった。
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◆書評
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