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【有料記事(無料期間終了)/J1第22節第2報】大久保択生、苦難を経て掴んだJ1の初舞台で完封勝利という最高の結果を残す(2017/08/14)

写真は8月7日、ゴールキーパー練習中にステップを踏む大久保択生。

ヴィッセル神戸を1-0で下したJ1第22節のヒーローは大久保択生だった。ヒーローインタヴューの壇上に上がることを予想していなかった彼は、それでもよどみなく、あかるい声で質問に答えていた。

数分ののち、試合が始まる前から「タクオ」コールで支えてくれたFC東京のゴール裏に赴いた択生の眼には涙がにじんでいるように見えた。択生は否定したが、労苦の末に掴んだJ1デビューの舞台で勝利を収めた喜びは認めた。
「うれしかったです、すなおに。プロになってからJ1の試合に出ることを目標にやってきましたし、その試合で勝利に貢献できたので。ほんとうにうれしかったです」

2008年に横浜FCに加入、プロの世界に足を踏み入れてから10年めのことし、ようやくJ1のピッチに立つことができた。2016年までの出場記録はJ2リーグ136試合、そして天皇杯9試合。2011年から2013年まで在籍したジェフ千葉では天皇杯に出たのみで、J2での出場すらなかった。V・ファーレン長崎在籍時の2015年に出場したJ1昇格プレーオフが、彼にとり、もっともJ1に近づいた瞬間だったと言えるのかもしれない。

2017年、FC東京に完全移籍加入。しかし日本代表の林彰洋がゴールを守るトップチームで試合に出ることは容易ではなかった。そしてJ3、ルヴァンカップ、天皇杯で、択生の苦悩はつづいた。
FC東京U-23の一員としてオーバーエイジ資格で4月2日に出場したJ3第4節vs.鹿児島ユナイテッドFC戦では、イレギュラーバウンドのシュートとPKで2失点。
4月26日のルヴァンカップグループステージ第3節vs.ジュビロ磐田戦では前半11分に先制点を奪われたあと、18分にPKを与えて一発退場。同大会第4節は出場停止処分となった。
再起戦は4月30日のJ3第6節、vs.AC長野パルセイロ戦。無失点で0-0の引き分けに持ち込んだ。
5月10日のルヴァンカップグループステージ第5節vs.大宮アルディージャ戦では4-3の勝利を収めたものの、ドラガン ムルジャを倒してイエローカードを提示されるとともにPKを与え、ムルジャにこれを決められてしまう。Vs.磐田戦の余波を引きずるかのような場面だった。
6月21日、天皇杯の初戦となった2回戦、vs.AC長野パルセイロ。これはつらい記憶だ。J3のときよりもメンバーを落としてきた長野にセットプレーでゴールを許し、1-1でPK戦にもつれ込んだ。そしてこのPK戦で1本も止められず、大会から敗退した。
いい結果を残せないまま臨んだドイツ遠征でも、2試合合計で7失点。J1デビューを迎えるまで、J3第6節の無失点を除けば公式戦での好材料はほとんどないに等しいままだった。
しかし林彰洋が膝の違和感を訴え、出番がめぐってきた初のJ1で、択生は眼に見える結果を残した。
「“シャー”をやってみたかった。いつも観ているだけだったので」
その願いは叶った。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

択生は落ち着いていた。その落ち着きが数々のファインセーブと無失点勝利をもたらした。

自身のJ1初先発が大抜擢なら、廣末陸のJ1初ベンチもかなりの抜擢。廣末はがちがちに緊張していたのだという。その廣末に声をかける余裕があったということは、精神が安定していたということなのだろう。
「ベンチにいたリクとはどんな話をしたんですか?」と訊ねると、択生の答えは「リクですか? リクは……とりあえずリクが緊張していたので」
われわれとともに爆笑したあと、択生は言葉を継いだ。
「ぼくよりも全然。昨日からがちがちだった。ぼくはリクに“おい、おまえが緊張してどうすんだよ”って言っていました」

結果として、8月13日は「大久保択生の日」となった。
ミックスゾーンで髙萩洋次郎の取材を始めて少し時間が経った頃、択生が通りかかると、髙萩は「択生に行ってください!」と言い、われわれ記者に移動を促した。きょうは自分ではなく「択生の日」だ、ということなのだ。

ルヴァンカップやJ3、天皇杯、そしてドイツ遠征で出場機会を得ながら、なかなかいい結果を残すことができなかった、ここまでの戦いぶりを思い起こせば、大久保択生のプレーは賞賛に値する。彼への評価を訊ねると、篠田善之監督は次のように語った。
「ルヴァンカップ(のvs.ジュビロ磐田戦)に出ていきなり退場したり、

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