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「感動するゲーム」でつかんだ史上初の全国ベスト8~日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会ラウンド16レポート

モンテディオ山形ユースが、現在開催中の日本クラブユースサッカー選手権(U-18)でチーム史上初のベスト8を勝ち取った。この歴史的な試合のレポートを、東北の育成年代サッカーに詳しいフリーライター・小林健志さんに寄稿していただいた。

東北予選でベガルタ仙台ユース、塩釜FCユースといった強豪を抑え、東北第1代表となって臨んだ「第41回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会」。グループステージは7月23日の栃木SCユース戦で0-0と引き分け、24日の大分トリニータU-18戦は1-0と勝利。26日の川崎フロンターレU-18戦は0-1と敗れたが、Bグループ2位となり、4年ぶり2回目のノックアウトステージ進出を決めた。

そして27日11:00~、前橋フットボールセンターCにてラウンド16アビスパ福岡U-18戦が行われた。アビスパ福岡U-18は現在プレミアリーグWESTで最下位と苦しんでいるが、グループステージはDグループでジュビロ磐田U-18に2-1、サンクFCくりやまU-18に11-0でいずれも勝利。ガンバ大阪ユースには2-2で引き分けたが、2勝1分けと負け無しでグループステージを突破した強敵だ。

試合序盤は両チームともボールが落ち着かず、どちらかと言うとアビスパ福岡U-18がボールを持って攻め込む展開となった。しかしグループステージ3試合でわずか1失点とプリンスリーグ東北同様手堅い守備に定評のあるモンテディオ山形ユースの選手たちは落ち着いていた。「守備は栃木、大分、川崎とやった時できていた部分が多くて自信があった」とキャプテンDF佐藤岳(3年)はグループステージでの経験を自信にしていた。「プリンスリーグ東北でも我慢する時間を経験して、耐えることをみんな意識してやっています」と語るのはエースストライカーのFW鈴木朝日(3年)。自陣に攻め込まれる時間帯もしっかりと耐え、前半を0-0で終えた。

この日のスターティングメンバーは2年生やリーグ戦での出場経験が少ない選手が多かった。「グラウンド状態もあって、相手も最初手探りでした。つばぜり合いをするための先発メンバーを用意して、つばぜり合いが落ち着いた頃、経験のある3年生を入れる順番でした」と今井雅隆監督は起用意図を説明した。前半の36分に仲嶋翔太(3年)、後半に入り51分にMF吉田樹(3年)、59分にMF大友千裕(2年)とリーグ戦経験豊富な選手を入れると、流れはモンテディオ山形ユースへ傾いていく。72分にはMF川俣大(2年)のクロスから吉田がシュートを放つが、惜しくもDFにクリアされ、77分にはロングボールを受けた鈴木がシュートを放とうとするが、相手GKに阻まれた。

攻めながらもなかなか得点が奪えない中、81分ビッグチャンスが訪れた。右サイドから中央へカットインした仲嶋が相手DFと交錯しながらもゴール前へボールを送ると、大友千がシュート。これもGKと交錯して左サイドへボールが流れ、こぼれ球は鈴木の下へ。「チャンスも少なくてここは決めるしかないと思いましたが、良いコースに行ってくれました」。思い切って振り抜いた左足から繰り出されたシュートがついにゴールネットを揺らした。そして、その後はアビスパ福岡U-18の反撃をしのいで1-0で勝利。チーム史上初の全国ベスト8進出を決めた。

今井監督は試合前こんな話をしたという。「結果を出すのも大事だけれども、感動するようなゲームをしてその後に結果があるんだ」。先制直後、ゴールを決めた鈴木が絶叫しながら走って行ったのは、熱心に応援していたベンチ外選手たちのところだった。戦術的な問題や、大会前の大きな負傷。様々な理由でピッチに立つことができず、悔しい思いをしている仲間の分まで戦う。鈴木とゴールを喜び合うベンチ外選手たちの姿はチームの強い団結を示していた。まさにそれは「感動」を呼ぶ場面だった。「彼らは自分たちでサッカーを作り上げていて、自分たちが努力すればそれに仲間が共感して、輪が広がって力が出て、前向きに進んでいくということを、勝ち進んでいく中で体感しています」。今井監督が選手たちが大会を通じて、サッカー選手としてだけでなく、人間的にも成長していることを感じていた。

29日9:00~前橋フットボールセンターBで行われる準々決勝の対戦相手は鹿島アントラーズユースに決まった。2年前の高円宮杯U-15、モンテディオ山形ジュニアユース庄内がチーム史上初の全国ベスト8を達成した時、準々決勝で敗れた相手が鹿島アントラーズジュニアユースだった。川俣やDF五十嵐英敏(2年)らはまさにその試合で悔しさを味わった選手たちだ。「アントラーズは全国区のチームなので、ジュニアユースとユースは全く別物のチームです」と今井監督は語るが、準々決勝、相手は鹿島というのはやはり因縁を感じさせる。「挑戦者の気持ちで何も失うものは無いので、勝てるように頑張りたいと思います(鈴木)」「次はベスト4に行けるように頑張ります。絶対に東京(準決勝・決勝会場)へ行きます(佐藤)」と選手たちの大一番への意気込みは強い。準々決勝の大舞台でも「感動するゲーム」を展開し、ぜひ勝利をつかみ取りたい。

プロフィール
小林 健志(こばやし・たけし)
1976年静岡県静岡市生まれ。大学時代を宮城県仙台市で過ごしたことがきっかけで、2006年よりで仙台を拠点としてサッカー取材をするフリーライターとして活動。東北の育成年代サッカーを精力的に取材している。

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