柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『図書館戦争』 「超法規的」ならなんでも許されると思ったら大間違いだ!(柳下毅一郎) -3332文字-

 

『図書館戦争』

監督 佐藤信介
脚本 野木亜紀子
撮影 河津太郎
原作 有川浩
出演 岡田准一、榮倉奈々、栗山千明、田中圭、福士蒼汰、石坂浩二

 

それは、我々の知っているのとは少しだけ異なる世界である。

昭和の末期に成立した「メディア良化法」は法務省のメディア良化委員会に広範囲な検閲権限を与えた。良化委員会の良化特務機関は本や雑誌を好き勝手に押収することを許され、たちまちのうちに言論の自由は圧殺された。それに唯一対抗すべく立ちあがったのが図書館である。「図書館の自由法」に基づき、本の押収に対抗して守るための組織を作ったのである。それこそが「図書隊」であった。図書隊と特務機関は熾烈な戦いを繰りひろげることになる。それこそが『図書館戦争』!

図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫) さて映画を見ていて最大の疑問は、どういう理屈で良化特務機関と図書隊が火器で武装し、銃撃戦を繰り広げているのかであった。銃刀法とのからみはどうなっているのか? 凶器準備集合罪は適用されないのか? わかってる。基本設定に突っ込みを入れるなんて野暮というものだ。ぼくだって年季の入ったSFファンだし、相当な大嘘だって受け入れる用意はある。だが、映画を見てもそこの理屈がさっぱりわからない。しょうがないので原作小説まで買って読みましたよ。そしたらそこにはたしかに書いてあったよ。「超法規的措置」って。

「メディア良化委員会、図書館ともにその根拠法を積極的に拡大解釈し、今となっては両組織の抗争そのものが超法規的性質を持ち、抗争が公共物・個人の生命と財産を侵害しない限りは司法が介入することもない。良化隊員と図書館員が抗争で死傷することすら超法規的解釈がなされている」

「超法規的」って一言書いときゃなんでも許されると思ったら大間違いだ! 「自由のために図書館員が武装とかしたら面白いな~」って思いつきを書いただけじゃないか。たとえばよしながふみの『大奥』が美男子ばっかりずらりと並べた腐女子ハーレムをでっちあげるためにどれだけ繊細かつ大胆な嘘をついて世界を構築してみせたかを思えば……まあしかし、そんなこと言ってもしょうがないのかもしれぬ。だって、肝心のお話というのが……

(残り 2413文字/全文: 3311文字)

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tags: 佐藤信介 図書館 岡田准一 有川浩 栗山千明 榮倉奈々 田中圭 石坂浩二 福士蒼汰 野木亜紀子

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