『潔く柔く』 いつ「キーッ、ガシャーン!」が来るか気が気でならない・・・ 難病マイスター新城毅彦監督が万全の布陣で送るお涙映画(柳下毅一郎) -3,519文字-
監督 新城毅彦
脚本 田中幸子、大島里美
音楽 池頼広
出演 長澤まさみ、岡田将生、高良健吾、平田薫、池脇千鶴、MEGUMI
原作はいくえみ綾の同名コミック。主演に長澤まさみと岡田将生、監督は『Life 天国で君に逢えたら』、『僕の初恋をキミに捧ぐ』などの難病マイスター新城毅彦という万全の布陣で送るお涙映画。高校のときに起きたある事件によって心に傷を負ってしまった三人の同級生のその後を描く大河ロマン……というか、自転車に乗りながら携帯をいじってはいけませんという交通安全啓蒙ムービーなのであった。
映画がはじまるといきなり血まみれで路上に倒れているハルタ(高良健吾)。瀕死のハルタは放り出された携帯に手を伸ばし……舞台は広島県福山市の名勝鞆の浦。
幼なじみのカンナ(長澤まさみ)とハルタは、同じ中学から来た仲良しの真山(中村蒼)と朝美(波留)と親友同士になる。いつも一緒の四人組。夏祭りの夜、四人で出かけたが途中でカンナと真山ははぐれて二人きりになってしまう。真山はカンナの手を握り、「花火は二人でいこう」と囁く。幼なじみと親友をまとめて裏切る立場に追い込まれたカンナは困惑しながらも、真山に惹かれている自分を偽ることはできない。はじめて浴衣を着て二人で花火大会に出かけ、キスをする。そんなこととはつゆ知らず、オートバイを買ってカンナを後ろに乗せたい一心でガソリンスタンドのアルバイトをしているハルタ。帰り道、自転車に乗りながらケータイでカンナに向けてメールを打つ。「(これから)行くよ」そのとき目の前にトラックが……ガシャーン!(冒頭に戻る)
病院にかけつけたカンナを朝美(実はハルタが好きだった……つまり実はハルタ一人がピエロ状態)は激しく罵る。あんたのせいで……! いやそこで朝美が正しく「自転車に乗りながらメールなんか打ってはいけません!」と慟哭すれば問題なかったのだが、余計なことを言ったせいでカンナには消えない心の傷になってしまったのだった。
八年後。東京。カンナはメロンワークスという小さな映画宣伝会社で働いていた。今日も今日とて新作映画の宣伝のために出版社まわり。行った先の編集部には先日たまたま行ったバーで失礼な絡み方をした(これが本当に失礼なナンパで、「あんなバー二度と行かない」となっても不思議ではないレベル)酔っぱらい(岡田将生)がいるではないか! 知らない顔で応対するが。
「なにこの映画、つまんなそう」
「そんなことないですよ。すごく面白いって……」
「へえ。どこらへんが?」
「あ……いや……まだちゃんと見れてなくて」
って見てない映画宣伝してるのかよ! この時点で映画界の全宣伝マンを敵にまわしたなこの映画。さすがにどんなに忙しくても映画を見ないで売り込みにいく宣伝マンはいない……と思うよたぶん。まあ映画見ないで原稿書くライターはときどきいますけどね!
まあともかくそんなわけで最悪の出会いだった相手だけれど、なんとなく気になってしまうカンナなのだった。ハルタの死のあと、誰にも恋ができなくなったカンナの時間が動きだす……!
で、カンナはそれでいいとして、他の二人はどうなったのかと思うやんかー?(てか真山との関係どうなったんだ?)いや、彼らはこの物語にはまったく関係ないので、ほとんど出てきません! 実はこの原作、ゆるやかにつながりあった男女それぞれを主人公にした連作中編集みたいな構成で、その最初と最後に置かれたカンナ編の映画化なのだ。なので思わせぶりに登場した四人組だが、残りの二人はそれぞれ適当に勢いでセックスしたりしなかったりして本編とは関係ないところでそれなりの幸せを見つけているのだった(ちなみにいくえみ綾の原作はほぼ「高校生が勢いでセックスするまんが」と要約できよう)。
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