『ジャッジ!』 CM業界の不愉快さだけはすべてリアル (柳下毅一郎) -3,278文字-
監督 永井聡
脚本 澤本嘉光
撮影 野田直樹
出演 妻夫木聡、北川景子、リリー・フランキー、鈴木京香、豊川悦司、荒川良々
以前トム・クルーズ主演の『ザ・エージェント』という映画を見たとき、その自画自賛のエージェント賛歌に大いに鼻白む思いをしたものだが、ついに日本にもそれに匹敵するお手盛り映画が誕生した!正義と真実の使徒、裏工作と嘘が嫌いな電通マン! そんなSFの世界にしかいないようなスーパーマン、役名が「キイチロー」というので「キイチローって無能だよね」「キイチローありえないっしょ」と罵られまくる事態が発生。これなんてプレイ?
さて主人公ブッキーは大手広告代理店「現通」のクリエイター「太田喜一郎」。「CMで世界中の人を幸せにしたい!」という夢を抱いて入社したものの、無能と社内ではあからさまに軽んじられ、合コンでは「キモい」とあからさまにハブられる。同じ名前を持つ身としては涙なしには見られない展開。同僚には同じ発音の名字をもつギャンブル狂の「大田ひかり」(北川景子)がおり、仕事は「おまえじゃなくて有能な方のオオタ!」に振られてしまう。今日は今日とてエースコックの「きつねうどん」のCMで、キツネの着ぐるみに入って腰をふらされる日々。スター・クリエイターの「大滝一郎」(豊川悦司)が「工夫しないという工夫だよ。裏の裏の裏の裏の裏は裏だからねえ」とか適当なことを言って作りあげたCMなのだが、「腰が売り」の麺だから腰を振るという手抜きの極地。ところがそいつをエースコックの宣伝部長に見せると「う~ん、猫に見えないね」と滅茶苦茶なことを言われて「みゃーみゃー」と猫の鳴き真似をダビングして猫のCMにするように求められる。もちろんその仕事をするのはブッキーで、トヨエツはさっさと名前を消してすべてをブッキーに押しつける。
トヨエツはサンタモニカのCM映像祭で審査員をつとめることになっていた。そこへ難題が発生する。大スポンサーであるちくわ屋のドラ息子(現通マン)が作ったCMが出品されるのだが、それを映像祭で入賞させなければCMをすべて引き上げるというのである。ちくわCMのあまりのつまらなさに「無理!」と見限ったトヨエツは、自分のかわりにブッキーを審査員として送りこもうと画策する。
「発音すればオレの名前もおまえの名前もオオタキイチロウだろ? ローマ字で書けば一緒だし、外人には顔の違いなんかわかりゃしないよ!
えーでも英語できませんし。
「大丈夫大丈夫。詳しいことは社史編纂室にいる鏡さんに相談してみろ」
というわけでかつて敏腕ディレクターだったが今は窓際に飛ばされているという鏡(リリー・フランキー)が登場するのだが、電通でCM映像祭の審査員とかやってる鏡ってひょっとして鏡明のことですか!? 藁をも掴む思いのブッキーがリリーを訪ねてみると、教えられるのはペン回しの技のみ。
「いいか、まずペン回しで注目をあつめろ。そこでおもむろに「わたしがペンをまわすのは、言いたいことがあるときだ」って言うんだ」
あとは料理の注文英会話の本と、ラムちゃんTシャツを渡されただけ。「キャラを作るのが大事なんだ。何かネタを考えないと、誰も相手にしちゃくれないぞ」
(残り 1834文字/全文: 3169文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
タグマ!アカウントでログイン
tags: チャド・マレーン リリー・フランキー 北川景子 妻夫木聡 松本伊代 永井聡 澤本嘉光 荒川良々 豊川悦司 野田直樹 鈴木京香 電通スタイル
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ