柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『御手洗薫の愛と死』  女流ベストセラー作家のアドバイス・・・ってそういう結論だったのか!? (柳下毅一郎) -3,670文字-

FireShot Screen Capture #197 - '映画「御手洗薫の愛と死」公式サイト' - mitarai-movie_com

 

『御手洗薫の愛と死』

製作・監督・脚本 両沢和幸
撮影 船橋正成
出演 吉行和子、松岡充、小島聖、松重豊、益岡徹

 

ico_yan これ、てっきり原作かなんかあったのかと思ったのだが、どうやら「『ナースのお仕事』などの人気ドラマを手がけた」両沢和幸のオリジナル原作による映画らしい。いや、いったいこれ誰に見せるつもりで作ったのか想像もつかないんだけど、何を訴えたかったのかなあ製作・監督・脚本の両沢和幸は。

そこは女流ベストセラー作家御手洗薫(吉行和子)の書斎。御手洗は一人ぶつぶつと「笹岡、笹岡どうしたの~ああ昨日あたしクビにしたんだっけ」と説明的セリフを述べながら冷蔵庫の食べ物をチンしたりして生活無能力者ぶりを誇示している。そこにドアチャイム。やってきたのは若きイケメン神崎龍平(松岡充)であった。二人の説明的セリフのやりとりから、前夜、御手洗はパーティ帰りに酒に酔った状態で車を運転して神崎の母親をはねて入院させ、しかも警察に行ってないことが判明。御手洗は神崎を家に招いてどうか警察に訴えないでくれと懇願する。さらなる説明的セリフから神崎もまた「作家のはしくれ」であることが判明する。デビューから二作続けて本になったものの鳴かず飛ばずで、三作目の長編は書いたものの編集者にボツられてしまったらしい。そんな売れない作家である神崎、書斎に御手洗の書きかけの小説があるのを見て

「じゃあ、警察に届けないかわりに、この原稿をちょうだい」
「あらダメよ。だってまだ完成してないんだもの」
「完成してからだよ」
「それもだめ。だって、最近オークションに生原稿出品したりする人がいるんですもの」
「勘違いすんなよ。ぼくはこの小説を自分の名前で発表させてくれって言ってるんだ」

 というわけで、引け目ゆえにさからえない御手洗薫は神崎に言われるがままに新作長編をくれてやり、本はたちまちベストセラーとなって神崎は文壇の寵児になりあがる。

という話だと吉行和子が世間知らずの小説馬鹿で、狡猾な松岡(SOPHIAというバンドのメンバーだそうですが何も知りません)が彼女の無知にくいついて……という話に聞こえるが、実はビジュアルからもわかるように「御手洗薫」という女流作家、あからさまに山村美紗あたりをイメージされて娑婆っ気たっぷりなので、最初から若くておぼこいイケメンを囲おうとしているようにしか見えない。「神崎」が「御手洗」の書斎を見て「やっぱ作家になるにはこんなに本読まないとなんないのかなあ」

「あら、あなたはなんで作家になろうと思ったの」
「いや、なんとなく……かっこいいじゃん」

 とか言ってたりして、いや粗野で野卑な男が愛人としてとりいって作家になろうという話ならまだわからないんでもないんだよ? でもこんなおぼこい男とエロ作家じゃ、どっちに転んだって自業自得にしかならないじゃないか。この話でいったい何を訴えようと思ったのか……

 

 

神崎から「ほら、本に巻いてある帯みたいな奴があるじゃない。あれに推薦の言葉とかを……」とまたしても説明的セリフで頼まれた御手洗はいそいそと編集者に電話して帯文を依頼させるように仕向け、本は見事に直×賞を受賞する。受賞パーティの夜、痛飲した神崎が目覚めるとベッドには裸の美女(小島聖)がいた。彼女は某社の女性編集者であり、色仕掛けで有望な作家を骨抜きにして原稿を取ると噂のハニートラップエディターなのだった。うーんまーそういう人もいるのかもしれないなー(棒) まあ裸でベッドに潜りこまれてる時点で勝負ありで、神崎は受賞第一作として短編を寄稿することを約束させられてしまう。ちなみに神崎の部屋(この映画には舞台がほぼ四つしか存在しない。御手洗の家、神崎の部屋、並木出版(書き下ろし出版の版元)の編集部、それにキャバクラである)は本当に本が一冊もなく、そのかわりにギターとかドラムセットとか置いてあるという……いや、一応長編二冊も出版してる作家なんだからさあ……

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tags: 両沢和幸 吉行和子 小島聖 松岡充 松重豊

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