『イン・ザ・ヒーロー』 真面目な人間が真剣に取り組めば面白い映画ができるかっていうと、そうではない (柳下毅一郎) -3,227文字-
監督 武正晴
脚本 水野敬也、李鳳宇
撮影 木村信也
音楽 イ・ドンジュン
主題歌 吉川晃司
出演 唐沢寿明、福士蒼汰、黒谷友香、寺島進、日向丈、小出恵介、加藤雅也、及川光博、和久井映見、松方弘樹
なんとプロデューサーが李鳳宇ではないですか。で、これ決して不快になる映画じゃない。作り手も俳優陣も真面目に取り組んでいるし、技術的にも東映の全力を注入して成果を出している。だが、真面目な人間が真剣に取り組めば面白い映画ができるかっていうと、そういうことではないのである。しかるにこの映画のテーマがんまさに「真面目な人間が愚直に夢を追えばきっと叶う」みたいなものだったので、見ているあいだじゅうずっともやもや……
さて、主人公は「アクション馬鹿」の本城渉(唐沢寿明)。特撮戦隊ものスーツアクターとしてウン十年のキャリアを積んできたアクション一筋の男である。本人はブルース・リーに憧れてアクション・スターを夢見ているが、いつまでも芽が出ないので薬剤師の妻には愛想を尽かされてしまった。スタントマン仲間を引き連れて下北沢ヒーロー・アクション・クラブ(HAC)という団体を作り、日々ヒーローショーで子供に夢を与えている。そんな彼に、何年ぶりかで顔が出る映画の仕事がくる。喜び勇んで妻に報告するが、いざ打ち合わせに行ってみると、その役を演じるのは売れっ子アイドル一ノ瀬リョウ(福士蒼太)になっていた。リョウは「こんなジャリ番やりたくないっすよ」と吐きすて、「ぼくはハリウッド目指してますから」とスタントをあからさまに見くだす傲慢な若造。そんなリョウに憧れのハリウッド映画での仕事がまわってくる。スタンリー・チャン監督(イ・ジュンイク)が日本ロケのニンジャ映画を企画し、そこで主人公の相棒役のオーディションを受けられることになったのだ。マネージャーが本城の知り合いだったことから、「ちょっと鍛えてやってください」とリョウのトレーニングを依頼される本城。だがリョウのほうはあからさまにやる気がない。ところが……
よく、日本映画は庶民を描くのはうまいが貴族は描けない、と言われる。要するに貧乏がしみついているので、豊かな生活を描けないというのだが、同じように日本の映画撮影の現場は描けても、ハリウッド映画の撮影現場は描けない。と言いたくなるくらいこのスタンリー・チャン監督のハリウッド映画の現場はひどい。チャン監督は『キル・ビル』みたいなインチキ日本趣味映画を作っているのだが、青葉屋みたいなセットをこしらえて「わたしの映画は本物のアクションをやる! ノーCG、ノーワイヤーだ! ここから飛び降りて何十人叩き切って火がついて燃えながら戦う! 4分50秒ワンカットで!」とか無茶なことを言いはじめる。だがその役を演じるはずだった香港のアクション・スターは「俺はそんな危険なことはできない」と言って映画を降板してしまう。このままでは日本ロケ自体がなくなってしまうピンチ、そこで……
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