柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『イニシエーション・ラブ』 あのね、どんでん返しがあるって言った時点で、すでにネタバレになってるのよ (柳下毅一郎) -3,852文字-

 

FireShot Screen Capture #003 - '映画『イニシエーション・ラブ』ABOUT THE MOVIE' - www_ilovetakkun_com_about_html

イニシエーション・ラブ

監督 堤幸彦
脚本 井上テテ
撮影 唐沢悟
出演 松田翔太、前田敦子、木村文乃、三浦貴大、木梨憲武、手塚理美、片岡鶴太郎、森田甘路

 

face「最後の五分。すべてが覆る。あなたはきっと二度見る」のコピーがついた乾くるみ原作作品。映画の最初には「本作には大きな“秘密”が隠されています。劇場を出られましたら、これから映画をご覧になる方のために、どうか“秘密”を明かさないでくださいネ」と字幕が出る。つまり映画の最後でどんでんがえしがあるんで、そこは内緒にしておいてくださいって言ってるんだけど、あのね、どんでん返しがあるって言った時点で、すでにネタバレになってるのよ。で、さらに「大きな“秘密”」とか書いてしまった時点で叙述トリック的なものだとわかってしまうわけで、となると当然ヒントが……なのでこの映画も、たとえぼくのように原作未読であっても、通常の理解力がある人ならネタはすぐに判明するはず。

 

https://www.youtube.com/watch?v=w8MEaS2neHE

 

まあ、堤幸彦にとっては、観客は騙すものではなくて、ネタを分からせてあげるべき対象なのだろう。ありがた迷惑なくらいに親切なおっさんが、「ほらここ! ここ注目して! これヒントだから! いやあ巧妙なトリックだなあ」と自画自賛してるのを横で聞かされているかのような感じ。だからぼくは堤幸彦の映画を見るといつも馬鹿にされてるような気がするんだけど(こんな程度で騙されるとでも思ってるのか、こいつは!)、まあ観客の最大公約数的な……小学六年生くらいが見る分にはいいのかもしれない。そんなわけでトリック的には見所何もなし! じゃあ何もいいところがないかというと、そんなことは……ない……と……思う……

男女7人秋物語 DVD-BOX いいとこその1  『男女七人夏物語』へのオマージュがある!

いやそれがいいことなのかどうかわからないけど、たぶん堤幸彦的にはしてやったりだったはず。1987年が舞台なので、ちょうど『夏物語』から『秋物語』へ行くあたりで世間的にも人気絶頂。マエアツさんが合コン仲間と一緒に海へ出かけるところでも「なんか、男女七人~みたいじゃない?」なんてことを言うセリフがある。木村文乃の両親役で片岡鶴太郎と手塚理美を配しているのも当然シリーズへのオマージュ(ついでながら木村文乃の演じる役は一枝=手塚理美を意識しているのだろう)。まあ当時を懐かしいと思って喜ぶ人もいるんじゃないかな? ストーリー的にもトリック的にもオマージュの意味はひとつもないんで、「ついでにオマージュしてみました」程度だけど、堤幸彦だからそれでいいんだよね!

いいとこその2 すだれ

もうすだれかよ! なんでかわかんないけど、マエアツさんの部屋にはすだれがかかっていて、すだれ越しのショットとかが頻発する。別に叙述トリックだから現実に一枚のヴェールをかけているとかそういう意味はとくになくて、別に境界線になってるわけでもなくて、キスシーンをすだれ越しに撮るとか本当に意味不明だなあ……と思ってたらこのすだれ、実は輪ゴムで作った輪ゴムすだれで、当時堤幸彦も愛用していた80’sアイテムなのだという。堤幸彦の青春の一ページが織り込まれているのだ。よかったね。

いいとこその3  マエアツさんが出てる

 

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tags: 三浦貴大 井上テテ 前田敦子 唐沢悟 堤幸彦 手塚理美 木村文乃 木梨憲武 松田翔太 森田甘路 片岡鶴太郎

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