柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『シネマの天使』 かつて「70mm大黒座」の偉容を誇った1892年創立の映画館が広島県福山市にはあった。映画愛と郷土愛の一石二鳥を狙った、まさかのメタ構造映画 (柳下毅一郎)

FireShot Screen Capture #036 - '映画「シネマの天使」公式サイト' - cinemaangel_jp

 

シネマの天使

監督・脚本・編集 時川英之
撮影 今井俊之
音楽 佐藤礼央
出演 藤原令子、本郷奏多、ミッキー・カーチス、阿藤快、岡崎二朗、横山 雄二、及川奈央、石田えり

福山市制百周年記念事業

 

face 広島県福山市には1892年創立の大黒座という大映画館があった。かつては中国地方初の70mm映写機をそなえ、「70mm大黒座」の偉容を誇った映画館だったが、時代の流れには勝てず2014年についに閉館に追い込まれる。というわけで多くの人に愛された大黒座をしのび、加えて1916年に市制施行された福山市の市制施行百周年事業の一貫として、映画愛と郷土愛の一石二鳥を狙って取り壊し前の大黒座を舞台に映画を撮ってみたのである。監督脚本編集の三役を務める時川英之は広島県出身のTVディレクター、ものすごく律儀な切り返しをしたがるので、会話シーンになると目がチカチカしはじめる編集には一考の余地あり。

 

 

大黒座でアルバイトする少女明日香(藤原令子)は悩んでいた。映画館愛に満ち満ちて「大黒座が潰れるなら映画館の仕事をやめる!」とまで思い詰めている先輩たちと温度差がありすぎて、自分は本当にこの仕事に向いているのだろうか……と疑問に思っていたのである。先輩、何がそんなに面白いんですか?

「自分の好きな映画を上映して、それを見たお客さんが楽しんでくれたら、わーってなるじゃないですか!」

 わーって……ならない……悩みながら寝ると夢の中で大黒座の中を歩いている。階段を登って、屋上に通じる扉を開けると、そこには青空の下、水に足をつけた男女がいた。

「ここは仙人のプールです」

 と言うのは仙人のアシスタント(及川奈央)と名乗る女。

「仙人は、あなたの知りたいことはすべて答えてくれます。なんでもきいてごらんなさい」

 そこで明日香が

「うーん、今、仕事続けるかどうか悩んでるんです」

 と言うと仙人とアシスタント、顔を見合わせて大笑い。なんなのよ!と憤ったところで目が覚めた。

ところで明日香が好きでもない大黒座で働いているのは幼なじみの映画マニアで毎週のように大黒座に通いつめているアキラ(本郷奏多)の勧めがあったからだった。子供のころ大黒座で映画を見て感激したアキラ、「いつか自分の撮った映画を大黒座にかけるんだ!」と思いなしてはやウン年。「脚本が書けない……」と悩んで今はしがないバーでバーテンをつとめる日々である。ある日客のいないバーでうたたねを……気がつくと大黒座の屋上にいる。

「仙人は知りたいことはすべて答えてくれます」
「ぼく、映画作りたいんですけど」
「作ればいいじゃないの」
「作り方がわからないから訊いてるんだろ!」

 と言われた仙人とアシスタント、顔を見合わせてハハハ……こいつら、質問には何も答えないで、人を馬鹿にして笑ってるだけじゃないか! すごく感じ悪いぞ仙人。

 

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