柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『縁 The Bride of Izumo』 出雲が舞台でヒロインが佐々木希、撮影がクリストファー・ドイルでエグゼクティヴ・プロデューサーがマジシャンという映画の謎の「ご縁」 (柳下毅一郎)

 

縁 The Bride of Izumo

監督 堀内博志
脚本 堀内博志、川原田サキ、樋口隆則、佐藤智恵
撮影 クリストファー・ドイル
音楽 金子隆博
出演 佐々木希、井坂俊哉、平岡祐太、国広富之、りりィ、藤本敏史、根岸季衣、いしだ壱成、佐野史郎

 

 

face この映画、一言で説明すると出雲が舞台でヒロインが佐々木希、撮影がクリストファー・ドイルでエグゼクティヴ・プロデューサーがマジシャン! 何を言っているのかわからないと思うが、自分でも何を見たのかわからな……まあ地域振興映画は山師のたまり場だ、ということを延々と主張しているわけだけど、この映画は意味不明のレベルを一段引き上げた。監督の堀内博志はPFFアワード2010に入選後、実直に地味な青春ストーリーなど撮っていた人なので、この謎の企画はエグゼクティヴ・プロデューサーの高山リオのものだろう。

MOON DREAM〈ムーン・ドリーム〉 [DVD] この人、実はトリックスター・リオなる名前でマジシャンとして活動するかたわらボビー・オロゴン監督作品ムーン・ドリームに俳優として出演するなど多方面に活躍する謎の人。マジック・パワーで出雲大社と佐々木希とクリストファー・ドイルを引き寄せてしまったのか。いやそれくらい、どこからどうつながってクリストファー・ドイルが登場することになったのか、さっぱりわからないのである。そのすべてを教えてくれる(かもしれない)パンフレットは劇場で1800円で売っていたのだった……

さて出雲大社と言えば大国主命を祭神とし、縁結びのパワースポットとして昨今では有名なのだとか。その出雲大社で佐々木希の白無垢姿を撮ればゼクシィでも大人気ですよ!ということになったのかなんだか知らないが、オープニングはいきなり白無垢姿の真紀(佐々木希)の結婚式。カットが変わると喪服の真紀が祖母の葬儀で火葬のボタンを押そうとしている。なんだこのコスプレ映画……

 

 

映画は基本的に説明がなく、カットからカットへ話がぽんぽん飛んで、イメージ・カットをつないでいくような編集がされているので、最初のうちは時系列もよくわからなくて話についていけず混乱してしまった。クリストファー・ドイルの撮影はさすがに流麗なんだけど、全体にシーンを流して撮り、あるいはイメージ・カットのように宍道湖のシジミ漁の風景をインサートしたり、かなり自由にやってる印象。まあクリストファー・ドイルに細かい注文はつけられないよね……なのでゆるやかなペースで物語は進んでいくのだが……納骨を終えて東京のアパートに戻ってきた真紀、祖母の遺品を整理していると、白無垢の打ち掛けと一緒に大量の婚姻届を見つける。すべて「秋国宗一」の名前だけが書かれている。よもや祖母には自分の知らない求婚者がいたのだろうか? 早くに母を亡くし、母親がわりとなった祖母に育てられた真紀だったが、思えば祖母のことは何も知らないままだった。祖母の恋人らしき男性に会おうと思いたった真紀は会社(結婚情報誌の編集者)に休みをもらって出雲に戻るのだった。

で、とりあえず出雲に来て島根県古代出雲歴史博物館をぶらぶら見ていると、館長(佐野史郎)につかまって親切の押し売りを受ける。

「小伊津町に行きたい? じゃあこいつ運転手に使って!」

と無理矢理押しつけられたのが寡黙なシジミ漁師充(井坂俊哉)。おりしも祖母アキエが白無垢着てシジミ漁師と宍道湖で結婚式をあげたという話を聞かされたところ、ここは縁結びの地だし……実は真紀には婚約者がいるのだが、いろいろモヤモヤした思いを抱えた真紀は、彼(何を言っても許してくれるので「優しさ王子」「気配り王子」と呼ばれている)の実家に挨拶に行くのを延期して出雲に来ているのだった。で、そこでたくましい男と出会うという話だね……さて充に連れていってもらった住所だが、「秋国」は引っ越した後だった。壁には漆喰で作った紫陽花の花がある。「紫陽花の花言葉は……家族のつながり」

一度東京に帰る真紀だが、実は大量の婚姻届の住所がすべて違っていることに気づき、この住所のどこかに「秋国」はいるのではないかと思いつく。ここらへん、説明セリフなしで語っていくのはいいのだけれど、もともと妙にまだるっこしくて設定が複雑な話なもので、やたら話が長くなってしまうのね。そこらへんもドイルの撮影が気になった一因かもしれない。ともかく「優しさ王子」をほっぽらかして出雲に来た真紀、着いたところでうまいこと佐野史郎に見つかってまた充を「運転手で使って! こいつ、独身だし!」と押しつけられる。これ真紀も全然拒否しないし、宿に送った充がそのまま帰ろうとすると不満顔だし、あきらかに何かを期待している雰囲気。

 

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