柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『母と暮せば』 小百合さまが息子の幽霊につきまとわれるホラー映画の登場である。これ「制作総指揮:大川隆法」じゃないのか!? (柳下毅一郎)

 

母と暮せば

監督 山田洋次
脚本 山田洋次、平松恵美子
撮影 近森眞史
音楽 坂本龍一
出演 吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、加藤健一、橋爪功、小林稔侍、広岡由里子

 

face   「一九四五年八月九日、ぼくは死んだ」

神聖サユリ帝国皇帝吉永小百合様の映画人生が不気味なのは、どこかで時間が停止してしまった感があるからである。サユリストの妄執に囚われて、年をとることすら許されずいつまでも辺土をさまよう……と思っていたら、なんと小百合さまが息子の幽霊につきまとわれるホラー映画の登場である。まさかと思ったが本当にホラー映画だったので驚いた。

 

 

父と暮せば (新潮文庫) 本作、井上ひさし作の『父と暮せば』の姉妹編なのだが、いろいろ大人の事情で井上ひさしの名前は使えなくなったそうで、長崎の原爆投下とその被害がテーマである。小百合様の息子で、長崎医大の医学生だった浩二(二宮和也)が幽霊になって戻ってくるというのだが、ということはおそらく小百合様は40代のはずである。息子浩二は二十歳くらいだろうが、演じるニノこと二宮くんは32歳。ニノ、それなりに芸歴も長いし大人にしか見えない。学生服を着てるとどう見ても「おっさん学生」だ。それだけでも辛いのに、その母親が小百合さま70歳! いやどう考えても息子じゃなくて孫だろ!!! しかし神聖サユリ帝国においては頑張って40代の役というお年頃の小百合さまなのであった。

さて、そういうわけでおっさん医学生ニノは死んだ。三年後、婚約者だった町子(黒木華)と一緒にお墓参りにきた小百合さま。

「もう三年もたったし。そろそろ諦めようと思うのよ。せめて遺品のひとつ、遺骨でもと思ってたけど……」

まあ原爆直下ではね……というところでその夜、いつものように息子の遺影に陰膳をそなえ、ひとしきり独り言をごちると、ふと後ろにニノが座っている。

「あきらめの悪かねえ、母さんは。母さんがいつまでも諦めないから、出てこられんじゃったやないか」

よくわからない理屈だが、母親が死を認めなかったのでこれまで出てこられなかったのだという。ということはやはり小百合さまの脳内存在なのか?と思われるのだが(実際、小百合さま以外の目には見えず、恋い焦がれている黒木華の前にすらあらわれない)、誰も見ていないところでポルターガイスト的にものを動かしたりする描写がある(一人でレコードをかけて、町子のことを思って涙する)。山田洋次がどういう意図で演出しているのか判然としないのだが、やはり実際に浩二の霊が甦ってきたと解釈すべきなんだろうな。で、にぎやかでおしゃべりだという生前のままの姿で甦ってきたニノ、小百合さまと二人ではしゃぐのなんの。方言指導を徹底した結果ではないかと思われるが、結果すべてのセリフが発音ははっきりしているものの感情がまったく感じられない大仰な大根芝居になってしまったという……

「おかあさん、元気にしてた?」
「あなたは元気?」
「え、ぼくは死んでるんだよ。元気だって! はっはっは! おかあさんは、あいかわらずおとぼけだなあ」

天然ボケの母と元気な息子という組み合わせのつもりらしいが、大時代で鈍感なセリフにはいらいらするばかり。なお、天然ボケな母親には何くれと世話をやいてくれる「上海のおじさん」(加藤健一)がおり、闇市で仕入れたブツを届けてくれる。この人、役名が「上海のおじさん」で、小百合さまの家に来るときも「上海のおじさんですよ~」と言って訪れるのだ。名前はないのか!「上海のおじさん」、町子に縁談をもってくるも、「たちの悪い女たらしみたいな人」と小百合さまに言われて

「まいったまいった。わはは。たちの悪い女たらしだって! わはは」(棒)

と汗をかきながら退散。まあ縁談はともかく、好きな人がいれば結婚も……と言うのを聞いた浩二

「好きな人? 誰のことや? いやだいやだそんなの。町子は素直だからきっと騙されてるんだ。町子にはぼくしかおらんのや」

とさんざん駄々をこねて暴れる。っておまえ死んでるだろ!!! 延々と小百合さまに諭され、しぶしぶながら「いい人がいれば」と結婚も認める。問題の「上海のおじさん」、町子の縁談は諦めたものの、例によって貴重な闇物資を持ってきて

「町子ちゃんはともかく、あなたは……どうですかな。いいかげん。再婚とかは……」
「あら、でもそんな相手もいませんし」
「いや……たとえば……わしとか……」

まあ「上海のおじさん」が小百合さまに気があるのは小百合さま本人もうすうす感づいていて、だけどあえてそこはスルーして闇の物資をもらっていたのだった。文句を言う浩二に

「たしかにあの人は教養もなくて不作法な人だけど、今のような混乱した時代を生き抜くためにはああいう行動力も必要なのよ」

と完全に上から目線で擁護する。「教養もない」ってためらいなく言いはなつあたりが小百合さま。だが、その行為に浩二は激怒。

「不潔だよ! おじさんに色目を使って融通してもらうなんて! しかも再婚だなんて! お父さんに言いつけてやる!」
「やめてちょうだい! あの人には言わないで!」

おまえ死んだんだからいいかげん乳離れしろよ! そんなわけで闇物資は買わないと浩二に約束する小百合さまである。

 

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