柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『桜ノ雨』 いいかげんネットの無料コンテンツにたかるのはやめて、真面目に原作なり脚本なりにお金使ってください(柳下毅一郎)

 

桜ノ雨

監督 ウエダアツシ
原作 halyosy
脚本 小林弘利
撮影 早坂伸
出演 山本舞香、浅香航大、広田亮平、久松郁実、田畑智子、奥貫薫

 

face 原作はボカロ曲! えー、以前に同じようなネタがあったときにも思ったことである。まだわかっていない人がいるようなのでここで強く申し上げておく。太字で。ボカロ曲を何千万回も再生している人は、それがただだから聴いているのである。無料曲のファンは無料だから聴いているのであって、わざわざお金を払おうとまでは思わない。ましてや映画館に足を運んだりすることはまず確実にない。ぼくが行ったときには観客三人。三人だよ……いいかげんネットの無料コンテンツにたかるのはやめて、真面目に原作なり脚本なりにお金使ってください。

で、本作の場合、問題のボカロ曲は卒業ソングを目指したものらしく、桜の花吹雪を雨に見立てて学園生活をふりかえるというある意味常識的な曲。なのでそれをストーリー化すると引っ込み思案の少女が合唱部に入って卒業前にみんなで歌をうたう……という非常に当たり前の、なんのひねりもない、ごく平凡な学園ストーリーができあがってしまう。せめてアイドル映画らしく、少女の魅力だけでも伝えているのかと思いきや、照明がないのかカラコレをしくじってるのか、彩度の落ちた画面で土気色ののっぺりしたCGのような肌の人たちが覇気の無い演技をくりひろげるというまるでゾンビ映画のような惨状に……本当に、なぜ作った……

 

 

ヒロイン、ミク(……山本舞香。ツインテールではない)は引っ込み思案な高校生。ある日、校内を歩いていると美しいピアノ曲を耳にする。ふらふら~と惹かれるようにそこに入りこむと、それを弾いているのはハル先輩(浅香航大)だった。先輩が作曲したというその曲『桜ノ雨』に運命を感じるミク。

「きみ、ピアノ好きなの?」
「は……はい!」
「それなら合唱部に……いやいいか」
「……いえ、入れてください。わたし音痴ですけど、その曲歌いたいです!」

 合唱部に入れば引っ込み思案な自分も変わるかと思った。けど、何も変わらないまま一年がたった。それにしてもハル先輩役の浅香航大って、なんでボカロ曲の実写化にばかり出演してるんだよ! ボカロ利権か!

 

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tags: halyosy Vocaloid ウエダアツシ ニコニコ動画 ボカロ曲 久松郁実 奥貫薫 小林弘利 山本舞香 広田亮平 早坂伸 浅香航大 田畑智子

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